EUとロシアの密接な経済関係

Moscow-City_at_night,_2008-03

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編集部注:本記事は翻訳家・平井和也氏の寄稿。同氏は、人文科学・社会科学分野の日英・英日翻訳をおこなっている。

米国は今回のロシアのクリミアへの軍事介入を受けて、ロシアに対して資産凍結やビザ発給停止、貿易制限を含めた制裁措置を検討するという立場を比較的早い段階からとってきた。先週の2日(日)に行われたドイツのメルケル首相との電話会談の中で、米国のオバマ大統領はロシアによるクリミアでの行動は正当性がないものだという点を強調した。

そして、実際6日(木)になってオバマ大統領は、ウクライナの主権や領土の一体性を脅かす人物・団体に対し、米国内の資産凍結や入国制限などの制裁を科すことを認める大統領令を出した。

 

慎重なEUの姿勢

それに対して、EUは当初からロシアに対して慎重な構えを見せていた。先週の2日(日)に行われたロシアのプーチン大統領との電話会談の中で、メルケル首相はロシアに対して政治対話を開始するための事実調査団を創設するという提案を行い、ドイツ政府報道官はプーチン大統領がそれを受け入れたと述べている。EU側は全欧安保協力機構(OSCE)か、または国連による調停を求め、実際、OSCEが5日にウクライナ政府からの要請を受けて、加盟57ヶ国のうち18ヶ国が計35名の軍事監視要員の派遣を決定し、要員は現地に向けて既に出発した。

EU 関連ニュースの専門サイト「EurActiv.com 」が3日(月)に報道したところによると、EU諸国でもドイツ、フランス、英国、オランダ、フィンランドは事態の沈静化に向けた調停を望んでおり、特にロシアと国境を接しているフィンランドは、EUまたはOSCEが少数民族の権利を保護する上で問題の解決に役割を果たすことができると考えているとされていた。

慎重な態度を見せているEUだが、実際のところ、昨年から両者の関係は悪化している。というのも、旧ソ連の共和国がウクライナを含めた欧州諸国との関係構築を図ろうとするのに対してロシアが圧力をかけ、それに対してEU諸国が怒りを表しているからだ。そして、昨年の11月にロシアがウクライナの当時のヤヌコビッチ大統領に対してEUと貿易協定を締結しないように圧力をかけたことで、ロシアとEUとの緊張関係は新たな局面をむかえることになった。

 

厳しい声明

そういう中でも、EUは慎重な姿勢を崩していなかったが、6日(木)にベルギーの首都ブリュッセルで行われたEUの緊急首脳会議で、ロシアがウクライナとの交渉を開始し、速やかに行動しなければ、EUはロシアに対して渡航禁止と資産凍結を含む厳しい制裁を発動するという立場を明らかにした。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』の6日の報道によると、今回の声明の内容は予想以上に厳しいものになったが、その理由の一つは、クリミア自治共和国最高会議がロシアへの編入を求める決議を全会一致で採択したことを受けてのものだったという。実際、ドイツのメルケル首相は、「EUは今日起こったことを受けて行動しなければならないと考えている」と述べている。EUのリーダーたちは、ロシアがウクライナにさらなる侵攻を行った場合、広範囲におよぶ経済制裁を含む重大な結果を招くことになると警告している。

今回のEUによる厳しい声明は、ロシアが周辺諸国に対する政治的圧力を強めており、それに対して欧米諸国が厳しい姿勢で臨む必要があるというEUの考え方を反映している。6日の首脳会議で特に大きかったのは、フランス、英国、ドイツのクリミア情勢に対する強い反応だったと語るEU高官もいる。英国のキャメロン首相は、ロシアが行ったことは認められないものであり、さらなる暴挙をおかした場合、さらに大きな問題となり、さらなる重大な結果を招くことになるという明確なメッセージをロシア政府に伝える必要がある、と述べている。

また、フランスのオランド大統領も、緊迫した事態を鎮めるためにはロシアに対して考えられる限りの最も強い圧力をかけることもあるだろうし、制裁を科す可能性もある、と述べている。EUはこのように以前よりも強気の姿勢を見せているが、EUのリーダーたちは彼らの目指すところはあくまでも平和的な解決だという点を強調している。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、EUは、主権国家への軍事的侵略に対して断固たる措置をとりたいという思いと、外交的に解決する道を残しておきたいという思いの狭間で揺れていると報じている。実際、フランスのオランド大統領は、前述の発言の後段で、制裁は緊張状態を高めるためのものではなく、あくまでも対話の道を開くためのものだと述べている。このようにEUはロシアに対して、やはり慎重な構えを崩していない様子が見えてくるが、その背景にはEUとロシアとの間の密接な経済関係が大きな要因としてあるだろう。

以下に、その具体的な統計をBBCの報道に沿って見てみたい。

ロシアと欧州の貿易関係

ロシアは英国をはじめとする欧州諸国と緊密な経済関係を築いており、貿易や金融などに制裁を加えると両者に不利益をもたらす可能性が高い。実際、EUはロシアにとって最大の貿易相手であり、その割合は41%に達している。両者の貿易は着実に進展しており、2012年には記録的な段階をむかえている。

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EUの貿易

EUの対ロシア輸出品のうち圧倒的に多いのが、機械、輸送機器、化学製品、医薬品、農産物だ。一方でロシアの対EU輸出品のうち圧倒的に多いのが原油と天然ガスだ。米国エネルギー省のエネルギー情報局(EIA)の統計によると、欧州諸国はロシアの石油輸出の84%を輸入に頼っており、天然ガスは76%だ。欧州の中でもドイツのロシアからの石油および天然ガスの輸入が最大であり、一方で英国はロシアの天然ガスの6%しか輸入に頼っていない。

米国はどうかというと、やはりロシアにとって重要な貿易相手国である。

2013年のロシアの米国からの輸入は269億ドルであり、この数字は輸出の倍以上だ。一方、米国はロシアの石油の5%しか輸入していない。

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www.bbc.com

 

英国の貿易

英国歳入税関庁の2013年の統計によると、ロシアは英国の主要な貿易相手国の中で輸出が14位、輸入が16位だった。英国はロシアからの輸入の方が、ロシアへの輸出を上回っている。2001年から2011年の10年間で、英国のロシアからの輸入は270%以上増加しているが、一方で対ロシア輸出も430%増加している。

2013年、ロシアは英国製の自動車の輸出先として、EU圏以外の国の中で第2位であり、英国の全自動車輸出の9.5%を占めている。また、英国はロシアに対してビジネスや金融のサービスも提供しており、その額は2011年には17億ポンドに達している。

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www.bbc.com

 

ロシアへの投資

英国はロシアに莫大な投資も行っており、2011年には総額110億ドルだった。この額はロシアへの投資額として世界で第6位だった。国連貿易開発会議(UNCTAD)の統計によると、ロシアは2012年に世界で第8位の投資国だった。ちなみに、米国が第1位で、英国は第5位だった。

英国の大手石油会社ブリティッシュ・ペトロリアム(BP)はロシアに莫大な投資を行っている。BPはロシア最大の石油会社であるロスネフチの株式の約20%を保有しており、そこから利益を得ている。英国企業はロシアと新たな貿易を積極的に行うように奨励されており、2012年12月に出された報告書によると、600社以上の英国企業がロシアで事業展開している。今年の1月、英国貿易投資総省は、ロシア企業が英国で開業するのを促進するための権限を拡大していると発表した。

政府の公式文書には、英国は貿易に対する制裁を科したり、ロシアに対してロンドンの金融センターを閉ざしたりするようなことはすべきでないと明記されている。

 

【参照記事】

WSJ: EU Calls On Russia to Negotiate With Ukraine European Leaders Say They Will Impose Tough Sanctions on Moscow if No Results

BBC: Russia’s trade ties with Europe

 

Photo : commons.wikimedia.org

AUTHOR

Kazuya Hirai

Kazuya Hirai

平井和也 | 1973年生まれ。青山学院大学文学部英米文学科卒業。人文科学・社会科 学系の翻訳者(日英・英日)。F1好き。 Twitter:@kaz1379/ブログ:http://entrans221.blog38.fc2.com/