SpaceX Falcon 9 Launch(SpaceX, Unsplash) , Illustration by The HEADLINE

なぜ宇宙ビジネスが盛り上がっている?今後5年で、1兆ドルの市場規模

公開日 2024年05月08日 18:26,

更新日 2024年05月08日 18:26,

有料記事 / ビジネス / テクノロジー

この記事のまとめ
💡宇宙ビジネス、今後5年で1兆ドルの市場規模に

⏩ 過去10年で民間企業の資金調達額は10倍、背景には SpaceX によるロケット打ち上げの低廉化
⏩ 宇宙ビジネスの中核を担うのは、Space for Earth Economy
⏩ SpaceX への過度な依存からの脱却も課題

宇宙ビジネスに、かつてないほど注目が集まっている。

Space Economy とも呼ばれる宇宙ビジネスの市場規模は過去10年で約1.6倍に拡大し、2030年までには1兆ドル(約150兆円)に達するとも予想されている人工衛星の打ち上げ回数なども急増しており、世界のロケット打ち上げ回数は過去3年間で倍増した

1960年代に世界初の有人月面着陸に成功したアポロ計画をはじめ、これまでの宇宙開発は主に、各国政府の主導によって進められてきた。たとえば、米国における宇宙に関係する研究開発費の支出元を確認すると、2010年時点では約9割を米国政府が占めていた

しかし近年は、宇宙開発分野における民間企業の存在感が、増している過去10年で宇宙開発分野における民間企業の資金調達額は10倍以上となり、同分野におけるスタートアップ企業の数も2倍以上に増加した。前述の米国における研究開発費の支出においても、米国政府の支出割合は7割以下に減少し、代わって民間企業による研究開発費が増加している。

なかでも、民間主導による宇宙ビジネスの盛り上がりを牽引しているのが、2002年にイーロン・マスク氏によって設立された SpaceX だ。同社は2023年に98回のロケット打ち上げを行ったが、これは同年中の全世界でのロケット打ち上げ回数の約46%を占めている。同社は米・航空宇宙局(NASA)との間で国際宇宙ステーションへの輸送契約も結んでおり、これまで政府が主体となって進めてきた宇宙開発における民間企業の存在感はかつてないほどに大きくなっている。

一体なぜ今、宇宙ビジネスに注目が集まっているのだろうか。そして、今後もこの盛り上がりは継続するのだろうか。

宇宙ビジネスとは何か

宇宙ビジネスにはいくつかの種類がある。なかでも事業の目的に着目すると(1)Space for Space Economy と(2)Space for Earth Economy の2つに大別できる。

Space for Space Economy とは何か

まず Space for Space Economy とは、その名の通り、宇宙での利用を目的とした製品やサービスを核とした事業を指す。具体的には、3Dプリント技術を利用して、宇宙で使用する太陽光パネルを宇宙空間で製造するサービスなどがこれにあたり、いわゆる宇宙旅行などもここに分類される。

しかし、後述のように現状では Space for Space Economy の市場規模はごく僅かにとどまっており、宇宙ビジネスの中核は次の Space for Earth Economy が担っている。

Space for Earth Economy とは何か

Space for Earth Economy とは、衛星通信サービスをはじめ、地球で利用することを目的として宇宙で展開される事業などを指す。先に、宇宙で用いる太陽光パネルを3Dプリントで製造する技術に触れたが、この太陽光パネルで生み出した電力を地上へ送るサービスは Space for Earth Economy に分類できる。

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2022年時点で、世界の宇宙ビジネスの市場規模は3,840億ドルと推定されているが、このほとんどを Space for Earth Economy が占める。内訳は、打ち上げた衛星の管理などを担う地上局サービス(1,450億ドル)、衛星サービス(1,130億ドル)、衛星の製造サービス(158億ドル)、衛星打ち上げサービス(70億ドル)などとなっている。

前述のように、こうした Space for Earth Economy の市場規模は過去10年で約1.6倍に成長しており、スタートアップをはじめ民間企業による参入も急増している。では一体なぜ今、宇宙ビジネスの市場は活況を迎えているのだろうか。

なぜいま宇宙ビジネスが盛り上がっているのか

宇宙ビジネスが拡大する背景には、各国政府からの強い後押しを受けつつ、宇宙ビジネスのインフラであるロケットと人工衛星について、需要と供給の双方が大きく増加していることがある。こうした状況について、(1)技術的要因(2)政治面的要因(3)経済的要因の3つの観点から理解することが出来る。

技術的要因:SpaceX による技術革新

宇宙ビジネス隆盛の土台となっているのが、イーロン・マスク氏率いる SpaceX の台頭によるロケット打ち上げコストの低廉化と、それにともなうロケット打ち上げ回数の急増だ。

Jonathan‘s Space Reportより筆者作成
Jonathan‘s Space Report より筆者作成

上のグラフが示すように、世界のロケット打ち上げ数は2020年以降急増しており、この背景には SpaceX による技術革新がある。2002年に設立された同社は、2008年に小型ロケット・ファルコン1の軌道投入に成功した後、2010年からは大型ロケット・Falcon9(ファルコン9)の改良を重ね、現在に至るまで同ロケットが SpaceX の主力ロケットとなっている。

ファルコン9の最も大きな特徴は、打ち上げ費用の低さにある。たとえば、2000年代に米国の主力ロケットとして活躍したデルタ4(Delta Ⅳ)の打ち上げ費用は、1kgあたり1万400ドル(約156万円)だったのに対して、ファルコン9の打ち上げ費用は平均で1kgあたり2,600ドル(約39万円)に抑えられている。

こうした安価な打ち上げ費用を実現できた背景には、同ロケットのエンジン自体の製造コストが比較的安いことに加え、エンジンを再利用できることがある。日本が運用している H2ロケットをはじめ、多くのロケットは「使い捨て型」で再利用することができない。しかし、ファルコン9の場合、ロケットの離陸に必要な第1段ブースターと呼ばれる機体が発射後に地上へ着陸する。そのため、回収した第1段ブースターは再利用することが可能となり、結果として打ち上げ費用を抑えることができる。

従来のロケットよりも遥かに低コストで打ち上げられるファルコン9は、各国政府や企業によって幅広く利用されている。

たとえば、日本のスタートアップで2023年4月に月面着陸に挑戦した ispace も、ファルコン9で月着陸船を打ち上げた。その結果、世界のロケット市場は「ファルコン9依存」とも言える状況となっており、2023年に世界で打ち上げられたロケットの総数のうち約半数をファルコン9が占めた。

政治的要因:各国政府による宇宙産業との連携強化

とはいえ、ファルコン9による第1段ブースターの再利用技術は、2017年時点ですでに確立していたそのため、2020年以降にロケットの打ち上げ回数が急増している背景には、もう1つ重要なポイントがある。

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✍🏻 著者
シニアリサーチャー
北海道大学大学院農学院博士後期課程。専門は農業政策の決定過程。一橋大学法学部卒。
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