Shallow focus photography of water in Auckland, New Zealand(Samara Doole, Unsplash) , Illustration by The HEADLINE

水素エネルギー、なぜ注目?日本の強み大きい一方、世界から批判も

公開日 2023年05月19日 20:42,

更新日 2023年09月07日 14:13,

有料記事 / 脱炭素 / ビジネス

この記事のまとめ
💡世界的に水素に注目、いったい何?

⏩ 脱炭素、エネルギー安全保障で大きな強み
⏩ 環境負荷の少ない水素の製造コストや輸送コストに課題も
⏩ 日本の旭化成・川崎重工など、技術開発で先行。しかし国際社会からは水素批判もあり、イーロン・マスク氏もその1人

エネルギー源としての水素に大きな注目が集まっている。

日本政府は2017年に「水素基本戦略」を策定していたが、岸田政権は先月、同戦略を改定する方針を発表。2040年までの水素導入目標を引き上げ、水素サプライチェーンに官民合計で15兆円を投資する計画となる見込みだ。

水素戦略を策定する動きは近年各国で広がっている。背景にあるのは、脱炭素に向けたクリーンなエネルギー源や、エネルギー安全保障の確保を目指す思惑だ。

水素は二酸化炭素などを排出せずに電力を生み出し、様々な原材料から製造できるという特徴もある。

では、エネルギー源としての水素には一体どのような用途があるのか。そして、水素を活用した「水素社会」の実現には一体どのような課題があるのか。

水素は何に使われるのか?

これまでも水素は製造業などの分野で幅広く利用されてきた。半導体の製造時にも水素は重要な役割を果たす。

だが、最近注目が高まっているのは「エネルギー源」としての水素の役割だ。エネルギー源としての水素には、主に以下3つの用途がある。

  1. 燃料電池車などの輸送機関の動力源
  2. 一般家庭に設置可能な家庭用燃料電池
  3. 水素発電

1. 輸送機関の動力源

1つ目は、輸送機関の動力源として水素を用いるケースだ。

水素を利用する輸送機関としては、燃料電池車(Fuel Cell Vehicle:FCV)が最もよく知られているが、実は宇宙船にも燃料電池の仕組みが利用されている。人類の月面着陸に貢献したことで知られるアポロ宇宙船も、燃料電池を動力源としていた。

では、燃料電池とは何か。「電池」という言葉が使われているものの、実際には発電機として考えた方が分かりやすい。

水素は酸素と反応することで水となるが、その際に電気と熱が発生する。燃料電池はこの性質を利用して電気を発生させ、蓄える。つまり、人工的に水素を供給して空気中の酸素と反応させ、そこで発生した電気をバッテリーに蓄え、自動車などの動力源とするのだ。

もっとも、化学反応の結果として水は排出されるものの、内燃機関などとは異なり燃焼によるCO2は発生しない。なお発電に必要な水素は、水素ステーションなどで供給される。

2. 家庭用燃料電池

この水素と酸素の化学反応による発電メカニズムを住宅向けに利用するのが、家庭用燃料電池だ。日本では「エネファーム」の愛称でも知られる。

ここでは、都市ガスなどから取り出した水素と酸素を反応させることで電気が生み出される。さらに、電気と同時に発生する熱は給湯などにも利用可能だ。

3. 水素発電

そして、3つ目の用途が水素発電だ。

これは火力発電同様に、水素の燃焼によってタービンをまわして発電する方法だ。水素は燃焼させてもCO2が発生せず、脱炭素と両立可能な火力発電燃料として期待が高い。

だが、水素は非常に燃えやすい性質を持ち、燃焼させる際に火炎によって機器が破損するリスクが高い。そのため、水素だけを使った火力発電は難しく、現在は液化天然ガスに30%の割合で水素を混ぜて燃焼させる「水素30%混焼」による発電の実用化が目指されている。

水素をめぐる世界の動向

水素エネルギーへの期待は、世界各国で高まっている

なかでも、2017年に世界で初めての水素基本戦略を策定したのは日本だ。その後、脱炭素への関心の高まりを背景に、ドイツ(2020年6月)、フランス(2020年9月)、英国(2021年8月)などが次々に水素戦略を採択し、水素の生産量目標などを打ち出している。

これらに加え、米国や中国でも水素エネルギーの利用は着実に拡大している。米・カリフォルニア州では、州内で販売する新車台数のうち一定割合を「ゼロエミッション車(ZEV)」(*1)とすることが義務付けられており、この規制を背景にFCVの導入が進んでいる。また、中国でもFCVを含む「新エネルギー車」(*2)の販売割合目標が各メーカーに義務付けられており、同国の水素ステーション数は世界最多だ。

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(*1)走行時に排ガスを一切出さない自動車。FCVの他に電気自動車も当てはまる。
(*2)中国市場における電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)の総称。

水素市場の動向

こうした各国による政策的な水素エネルギー推進を背景に、世界の水素市場も拡大傾向にある。2021年時点で、水素製造装置なども含めた水素関連市場は全世界で25兆円ほどとなっており、2040年には90兆円以上にまで成長することが予想されている

水素関連企業への投資も活発だ。水素関連の未公開企業への投資総額は、2021年に36億ドル(約4,800億円)に上り、2022年には50億ドル(約6,500億円)を超えた。

そのなかでも調達金額が特に大きい企業をいくつか確認してみよう。

水素関連の未公開企業のうち、2022年の調達金額が最大となったのが、中国に拠点をおく燃料電池メーカーの SPIC Hydrogen Energy だ。2017年に創業した同社は、中国の大手電力会社・国家電力投資集団(SPIC)の子会社で、2022年には8億9,000万ドル(約1,100億円)を調達した。

調達金額で2番目に大きいのは、米・ユタ州に拠点をおき、岩塩空洞の開発を手がける Magnum Development と三菱重工業が共同で立ち上げた ACES Delta だ。この事業では、Magnum Development が運営するユタ州の岩塩坑に、三菱重工業の技術で生産した水素を貯蔵し、発電などに利用することが目指されている。同社は2022年6月にオンタリオ州教職員年金基金などから総額6億5,000万ドル(約850億円)を調達。さらに同月には、米・エネルギー省から5億400万ドル(約650億円)の融資保証も受けている。

水素エネルギー、なぜ注目?

では、なぜここまでエネルギー源としての水素に注目が集まっているのか。大きな背景にあるのは、脱炭素とエネルギー安全保障への関心の高まりだ。

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✍🏻 著者
シニアリサーチャー
北海道大学大学院農学院博士後期課程。専門は農業政策の決定過程。一橋大学法学部卒。
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