⏩ 石破茂、小泉進次郎、高市早苗、河野太郎、上川陽子、小林鷹之の6候補を比較
⏩ 社会保障・経済・党改革・外交・憲法改正・選択的夫婦別姓の6つの領域
⏩ 各候補の具体的発言など、一覧で整理
2024年9月12日、自民党総裁選挙が告示された。8月の岸田文雄総理大臣による退陣表明を受けておこなわれる今回の選挙は、事実上、次の総理を決める選挙となる(太字は筆者による、以下同様)。
本選挙の候補者は、出馬表明順に以下の9名だ(カッコ内は年齢、続けて経歴)。
小林鷹之(49歳):経済安保担当相、防衛大臣政務官など
石破茂(67歳):党幹事長、防衛相、農水相、地方創生担当相など
河野太郎(61歳):現デジタル大臣。ワクチン担当相、外相、行政改革担当相など
林芳正(63歳):現官房長官。外相、文科相、防衛相など
茂木敏充(68歳):現幹事長。外相、党政調会長、経産省など
小泉進次郎(43歳):党青年局長、党総務会長代理、環境相、国体副委員長など
高市早苗(63歳):現経済安保担当相。党政調会長、総務相、科学技術担当相など
加藤勝信(68歳):厚労相、官房長官、党総務会長、一億総活躍相など
上川陽子(71歳):現外相。党幹事長代理、法相、総務副大臣など
開票は今月27日におこなわれ、新総裁が決定する。投票は全国の自民党員と国会議員によっておこなわれるため、一般の有権者は投票できない。ただ、今後の政策運営をめぐる議論や問題の争点化のためには、前提として候補者たちの主要な政策をおさえる必要があるだろう。
彼らはそれぞれ、どのような政策を掲げているのだろうか。
領域別の政策比較
前提として、9月9日に NHK が発表した世論調査によれば、本選挙において最も深めてほしい政治課題は、回答者の割合が多かった順に
- 社会保障(35%)
- 経済・財政政策(26%)
- 政治とカネの問題など政治改革(17%)
- 外交・安全保障(11%)
- 憲法改正(3%)
- 選択的夫婦別姓(1%)
だった。加えて、同調査で総裁にふさわしい人物として回答者が名前をあげた候補者は、順に
- 石破氏(28%)
- 小泉氏(23%)
- 高市氏(9%)
- 河野氏(6%)
- 上川氏(4%)
- 小林氏(4%)
だった。これを踏まえ本記事では、前述した6つの領域別に、特に上記6名の候補者たちの主要な政策を概観する。
1. 社会保障
1つ目は、社会保障だ。この領域では、高齢化と少子化、それに伴う社会保障費の負担をめぐる課題が大きな論点になるだろう。
総務省が9月15日に発表した人口統計によれば、日本は総人口が減少する中で、65歳以上人口が3,625万人と過去最多(総人口に占める割合は 29.3%)を記録している。一方で、2023年に生まれた子どもの数は約75万人と統計開始以来、過去最少となった。
三菱総合研究所の試算によれば、2040年には年金や医療、介護などの社会保障給付費が165兆円に上り、2020年度(132兆円)の1.25倍になる。こうした中、制度改革や財源確保といったポイントに各候補はどう立ち向かうのだろうか。
社会保障、岸田政権の経済政策(筆者作成)
石破茂
石破氏は、医療・年金・子育て・介護など全般の見直しを通じた生産性と所得の向上を掲げる。
たとえば、子育て支援について「手当より無償化へ」という方針のもと、国立大学・高専の授業料無償化、給食無償化を政策としてあげた。
小泉進次郎
小泉氏は、「人生の選択肢の拡大」を掲げ、「多様な人生、選択肢を支える仕組み」の構築を1年以内におこなうとしている。
具体的には、「働いても手取りが下がる年収の壁」の撤廃などをあげた。その他、労働者の健康確保を「大前提」に、労働時間規制の柔軟化も検討するとしている。後述する選択的夫婦別姓の見直しも、こうした「選択肢の拡大」の一環としておこなうと訴えた。
高市早苗
高市氏は「全世代の安心感」、特に「シニア世代が幸せで輝いて見えることは、若い世代の将来への安心感に直結し、消費マインドの改善」にもつながるとしている。
これを実現するため、たとえば「在職老齢年金制度は見直すべきだ」として「働く意欲を阻害しない制度へと改革」する考えを示した。同制度は、60歳以上の人が年金を受け取りつつ会社員として働く場合、賃金と厚生年金が合計で月50万円を超えると、年金が一部減額される仕組みだ。
その他、「生涯にわたってホルモンバランスの影響を受ける女性の健康問題」に対処するため、今年度内の創設が目指されている、女性の健康ナショナルセンター(仮称)の構築強化を進めるとしている。
河野太郎
河野氏は、「負担のない給付はない」との前提のもと、現役世代の負担を軽減する方針を示した。
具体的には、現役世代の社会保険料軽減を訴えている。河野氏は、高齢者にも負担能力のある人が大勢いると述べ、応能負担の原則によって世代内での支え合いをすることで、結果的に保険料の減額につなげたい考えだ。
また、所得関連のデータを国の窓口で一括管理することで、収入減に陥った人をリアルタイムに近い状態で把握し、必要な支援を迅速に実施する「デジタルセーフティーネット」の構築を掲げている。
上川陽子
上川氏は、団塊ジュニアの世代が高齢者になる2040年を念頭に「真の危機はこれから始まります」と語った。
具体的な政策としては、妊娠・出産・子育てを支えるため、生活・住宅支援などを強化するという。さらに。子育て世代の負担軽減策として、義務教育での給食無償化を実現するなどとしている。
また、「健康長寿日本への社会保障」として「令和の財政強靱化」を掲げ、国民皆保険制度、年金制度を堅持すると謳った。
小林鷹之
小林氏は、社会保障未来会議(仮)を立ち上げ、高齢化が進展する中でも若年層の保険料負担の軽減を図り、負担でも給付でもない「第3の道の具体化を急ぐ」と述べている。これは、「負担のない給付はない」とした河野氏と異なるビジョンを意味するが、小林氏の具体的な方策についてははっきりしていない。
また、教育を「国力の源」と位置付け、その充実のために教育無償化の範囲を拡大する方針を示している。
2. 経済・財政政策
2つ目は、経済・財政政策だ。
大きなポイントとしては、デフレからの完全な脱却を果たせるか、そのために実質的な賃金増を持続的に実現できるかが争点だ。加えて、岸田政権からの政策を踏襲するかについても、各候補で違いが見られる。
また後述するように、政府は防衛費予算を2023年度に 27.4%、2024年度に 17.0%(いずれも前年度比)増額させ、2025年度にも 10.5% 増額する予定だ。こうした点を踏まえれば、経済を強化することは極めて重要な政策課題になるだろう。
経済政策、エネルギー(原発)(筆者作成)
石破茂
石破氏は、「経済あっての財政」という考えのもと、財政健全化を進める姿勢を明確にした。
同時に、「デフレの完全脱却。これは我が国にとってきわめて重要な課題」と位置付け、物価を上回る持続的・実質的な賃金増の実現をするとしている。
具体的には、最低賃金の引き上げ(2020年代に全国一律1,500円)や、地方と中小企業を「日本経済の起爆剤」として、地方における起業・事業承継へのインセンティブ構築を掲げた。
また石破氏は、9月2日の BS日テレ・深層NEWS の中で金融所得課税強化を「実行したいですね」と述べている(*1)。
これは、現在一律20%(所得税15%、住民税5%)の税率を引き上げ、主に所得1億円を超える富裕層からの税収を増やし中間層・低所得者層への配分を図る政策だ。2021年に岸田政権が見直しの検討を表明したものの、実現には至らなかった政策であり、その実施を石破氏は謳っている。
(*1)一方で石破氏は、富裕層が海外へ流出するといった懸念を踏まえて議論する必要があり、「単に金融所得課税を強化するとは申しません」として、一定の留保を加えている。
小泉進次郎
小泉氏は、岸田政権の経済政策について、「基本的に私は引き継ぎたいと思っています」と述べ、同政権の政策を踏襲する方針を示した。そのうえで、「聖域なき規制改革」を掲げ、「日本に必要なことは強い経済を取り戻すこと」だと説明している。
具体的にはライドシェアの全面解禁や、「新卒で入社した企業で定年まで働く(という)昭和の終身雇用モデルは通用しない」として、大企業正社員の解雇規制見直しなどを1年以内におこなうとした。
なお、前述した石破氏の金融所得課税強化については「議論をするタイミングではない」と反論し、岸田総理が示した「貯蓄から投資へ」のシフトを継続させる構えを見せている。
高市早苗
高市氏は、「戦略的な財政出動」を通じて成長力を高めるとしている。安定した成長によって「自然と」税収が増えるため、税率を上げなくとも財政再建が進むという考えであり、石破氏や後述の河野氏とは異なる立場だ。
「戦略的な財政出動」については、危機管理投資と成長投資という方向性を打ち出している。たとえば、サプライチェーンの危機を念頭に、「食料自給率は 100% を限りなく目指していく」と訴え、土を使わずに屋内で植物を栽培する植物工場について、高い初期費用を国費で賄う考えを示している。後述するエネルギー分野への投資も、この一環だ。
また、日銀による足元での利上げの可能性については、否定的な構えを見せている。同氏は13日に自身の YouYube チャンネルのライブ配信で、「企業が設備投資をしにくくなる。絶対に消費マインドを下げてはいけない」と述べ、「金利はまだ上げちゃいけない」と述べた。ただ、「消費税を今すぐ引き下げるということは、考えておりません」としている。
なお、小泉氏が見直しを検討するとした解雇規制の緩和について高市氏は、日本の規制がきつすぎるわけではないとして、「私は反対でございます」と語った。
河野太郎
河野氏は、「金利のある新常態を踏まえ、規律ある財政を取り戻す」としており、この点は石破氏と共通している。
そのうえで、成長戦略として「個人にとっても企業にとっても躍動感ある労働市場を創り出す」という方針を掲げる。具体的には、解雇規制の緩和などを通じて雇用市場に流動性を生み出し、賃金アップを図る狙いがある。
上川陽子
上川氏は、「強力な物価高対策」を実施し、実質賃金アップを実現すると述べる。
成長産業については「令和版産業構造ビジョン」を策定し、半導体、AI、バイオ、ヘルスケア、航空宇宙、次世代原発といった分野の社会実装を飛躍させるという。
加えて、「コンテンツ・メディア大国の実現」というビジョンのもと、アニメ・漫画・ドラマなどのコンテンツ、文字や活字書籍などのメディア、公文書やアートの保護を「国家戦略の柱」に位置付けるとした。
また、解雇規制緩和をめぐっては「柔軟で流動的な雇用市場を作っていくことは、多様な働き方を認める社会にとって大変重要である」としつつ、「お金で一方的な解雇が自由である、こういったことは決してあってはならない」と述べた。
小林鷹之
小林氏は、経済政策を3つの柱の1つとしている。同氏は、「経済が財政に優先する」との「基本的な考え」のもと「シン・ニッポン創造計画」を掲げ、小泉氏や高市氏と同様、財政健全化には慎重な姿勢を見せた。
具体的には、「地方に国が大胆な投資」をおこない、全国に半導体、航空宇宙、自動車、金融、スマート農業など「その地域の特徴に合わせた核となる」戦略産業クラスターを築くとしている。
さらに、前述した石破氏の金融所得課税強化について、「今は増税ではなく、中間層の所得をどうやって増やすのかに重点を置くべきだ」と反論した。小泉氏や河野氏が前向きな解雇規制緩和については、「安易な解雇規制の緩和は、働く人を不安にさせかねない」うえに「格差を固定しかねない。場合によっては拡張しかねない」と批判している。
茂木敏充
本選挙の候補者の中で、経済・財政政策で岸田政権からの軌道修正を掲げているのが茂木氏だ。
同氏は、「増税ゼロ」を掲げたうえで、防衛増税などの停止を主張した。これは、防衛費増税を決めた岸田政権とは異なる路線であり、方針転換を示唆している。
エネルギー(原発)
足元で高騰が続き、物価上昇に寄与しているエネルギーについては、各候補者とも原子力発電所の再稼働を前向きに検討している。その中で、過去の立場から軌道修正した候補者もいる。
石破茂
石破氏は、原発ゼロに関する発言を直近で修正している。8月24日の出馬表明時点では「原発をゼロに近づけていく努力は最大限いたします」としていたが、9月6日の外国特派員協会の会見では「原発ゼロを実現するとは考えていない」と述べ、「安全を大前提とした原発の最大限の利活用」を掲げた。
この発言は、文脈を補って理解する必要がある。石破氏は原発について、AI 社会の到来という話題の中で扱っている。同氏は、AI による電力需要増加に対処して安定的なエネルギー供給を実現するため、地熱や小水力発電などのポテンシャルを最大限発揮した「結果として原発のウェイトが減っていく」のであり「原発ゼロが自己目的なのではない」と説明した。
小泉進次郎
小泉氏は、国民のくらしを維持できるだけの電力供給について、「(自給率の低さという)リスクは高まっている」という認識のもと「使える電源をしっかり使って」いくとした。
具体的には、原発の再稼働や新増設、建て替えなどの可能性については「全て選択肢を閉じることなく考えるべきだと思っています」と述べている。
そのうえで、化石燃料の輸入のために「毎年20兆円、化石燃料代で海外に支払っている」ことを問題視した。この負担を減らした分で、「地方経済そして国内で投資や資金が循環する」という「日本の形」を作りたいと訴えている。
高市早苗
高市氏は、「未来への贈り物として、エネルギー自給率 100%」という目標を掲げた。
具体的には、電力確保のために「原発の活用は必要」だと述べており、2020年代後半に向けて、小型原子炉など次世代革新炉への投資、2030年代に向けて核融合発電への投資を進める姿勢を強調している。
河野太郎
河野氏は、再生可能エネルギーを最大限活用するとともに、「安全が確認された原発の再稼働を進める」として、従来の原発ゼロを目指す方針を修正している。
同氏は、超党派で2012年に結成された勉強会・原発ゼロの会(現在の原発ゼロ・再エネ100の会)の共同発起人であり、原発ゼロを基本方針にしてきた。
方針転換の意図について、9月14日の討論会で「前提条件が大きく変わったので、現実的な対応策を考える必要がある」と述べた。
変わった前提条件とは、これまでの候補者も触れてきた電力需要(予測)の変化だ。河野氏によれば、同氏が原発ゼロを訴えていた2010年代前半は、電力需要が右肩下がりだったが、昨今は AI やデータセンターの拡充に伴い電力需要が右肩上がりになっている。
こうした前提条件の変化を受けて、同氏はそれまで再生可能エネルギーで賄えるとしていた想定を修正し、原発再稼働を政策として掲げ始めた。
上川陽子
上川氏も、原発の再稼働に前向きな姿勢だ。
同氏は「原子力の可能性については、これは極めて重要であると考えております」と述べ、「特に世界一の安全基準をしっかりとクリアしたうえで、また地元の皆さんのご理解をしっかりといただいたうえで、これを稼働させていく」という方針を示した。
小林鷹之
小林氏は、現在のエネルギー政策が再エネに偏りすぎていると批判する。
そのうえで現計画を年内に見直し、安全性を担保したうえで原発の再稼働・リプレース(建て替え)・新増設に取り組むと述べた。そのうえで、核融合発電の早期実装を目指し、将来的なエネルギー輸出国への転換を図る考えを示している。
3. 政治とカネの問題など政治・党改革
3つ目は、政治とカネの問題など政治・党改革だ。
派閥をめぐる裏金問題を受け、自民党は2024年4月、39名の議員に対する処分を発表した。今回の選挙は、麻生派以外の派閥が解散した状態でおこなわれるという意味で、転換点になる可能性がある(*2)。そのため、新総裁による党改革の舵取りは、1つの争点だ。
政治・党改革、外交・安全保障(筆者作成)
(*2)麻生派が残存していることについては、党内からも疑問の声があがっている。たとえば、菅義偉元首相は6月23日、文藝春秋電子版の配信において、派閥は全て無くなった方がよいとの考えを示し「党全体として派閥解消する。全部の派閥が一緒になってやる。そうしたことも、やはり私は必要じゃないかなという風に思ってます」と述べた。
石破茂
石破氏は、「ルールを守る政治」および「ルールを守る自民党」を掲げ、「節度を持って集めたお金、それがなぜ政治のために必要なのか、それを限りない透明性を持って国民に向けて公開をいたしてまいります」と表明した。
そして、「新体制になれば、可能な限り早く国民の審判を仰がねばならない」と述べ、早期の解散および選挙を実施する構えを見せた。その際、裏金問題で処分された議員を党として公認するかという議論は、「選挙対策委員会で徹底的におこなわれるべき」としている。
そのうえで、現在政党のガバナンスを律する法律がないことを問題視し、政党法の制定を提唱している。同法では、政党交付金の使途などの明確化を義務づけるという。
小泉進次郎
小泉氏はまず、「私が総理総裁になったら、できるだけ早期に衆議院を解散」し「国民に真を問う」としている。その際、裏金問題で「当事者となった議員を選挙で公認するか」については「説明責任を果たしてきたか」などを踏まえ、「新執行部において厳正に判断」すると述べた。
そのうえで、党から議員に支給される政策活動費の廃止、国会議員に支給される旧文書通信交通滞在費(現在の調査研究広報滞在費)の使い道を公開し、残った金額の公庫への返納を義務付けるとした。
高市早苗
高市氏は、「お金の入りと流れから属人性を完全に排除したい。会計や財務の専門家の力も借りながら党本部で必要な予算を明確にし、公平に配分する」と述べ、「特定の幹部が使途を決めるのではなく、公平に配分され、そして使途をチェックできる仕組みを作る」考えを表明した。
また、解散については「適切な時期」におこなうとして、具体的な時期には言及していない。処分議員に対する党からの公認については、前述した党による処分ですでに決着しているとして、次のように述べた。
非公認も含めて党内で議論を積み重ね、また調査をして決着した処分を総裁が変わったからと言ってちゃぶ台返しするというようなことをしたら、それはもう独裁だと思いますので、そういうことはいたしません。
河野太郎
河野氏は、「強い覚悟で党改革に臨む」として、「けじめをつけて前へ進む」ために「不記載となった金額を返還する」ことを求める考えを示した。
そのうえで、解散については「時の総理の判断に尽きる」として明言を避けた。処分議員に対する選挙での公認については「一旦けじめがつけば、あとは自由民主党の候補として国民の審判を総選挙で仰ぐことになるだろう」と述べ、新執行部の判断を仰ぐとした石破氏や小泉氏とは距離を取っている。
加えて、民間企業並のコンプライアンス遵守を徹底し、第三者機関の設置を含めた透明化を実現するという。
上川陽子
上川氏は、「新しい改革・対話型民主主義の景色を守る」という柱を掲げ、自民党のガバナンスコードに則した透明性を確保する方針を示す。
具体的には、民間企業水準のコンプライアンス体制を整え、弁護士などによる監査制度を導入するという。
解散時期について「なるべく短い時間でオープンにして、皆さんに信を問う」と述べている。処分議員に対する選挙での公認については慎重な姿勢を示し、すでに決着しているとした高市氏とは異なる考えを表明した。
上川氏は「課題や問題が発生した場合には、それぞれの当該議員が説明責任をしっかり果たしていく」ことが必要だとしたうえで、「一度決めたから、それでそのまますんなりといく、というものでは必ずしもないのは当然のことであります」と話している。
小林鷹之
小林氏は、党改革を3つの柱の1つと位置付け「人事財務あるいは運営に関して党の近代化を図っていきます」と述べた。
具体的には、ただちに党近代化実行本部(仮)を立ち上げ、「政策活動費は毎年公開。それができなければ廃止」するとしている。
解散については、「論点や政策を示してから信を問うのが常道だ」と発言した。
4. 外交・安全保障
4つ目は、外交・安全保障だ。
ポイントとして、日本の防衛力強化の展開や、それに向けて2022年に岸田政権が決定した防衛費増税やそれを含む「安全保障戦略の大転換」の方針が維持されるか、という点があげられる。
石破茂
石破氏は、ロシアによるウクライナ侵攻を念頭に「国連が無力」で抑止力が効かなかったとして、アジア地域の新たな多国間安全保障体制・アジア版 NATO の構築を掲げた。
防衛費増税については、見直しの検討を示唆している。本選挙への出馬を発表する前の7月、防衛費増額は「円高時に設定した計画」だとして、その是非を含めて「安全保障政策を見直さなければならない」と語った。
小泉進次郎
小泉氏は、「強い経済」を基盤とした「強い外交」の推進を訴えている。
具体的には、日本の防衛力強化のために、「防衛費対 GDP 比 2% を速やかに実現しなければなりません」と述べて、こちらも岸田首相が2022年に示した方針を維持するとした。加えて、「中国や北朝鮮との直接対話にもオープンな姿勢で臨む」としている。
高市早苗
高市氏は、無人機や極超音速兵器、自律型 AI 兵器といった「新たな戦争の様態に対応できる国防体制を構築する」と表明した。
そのうえで、「『自由で開かれたインド太平洋』に米国を関与させ続けることは日本の責任」だとして、安倍元首相が打ち出したビジョンの継承を示唆している。
河野太郎
河野氏は、「一国平和主義から脱却し、共通の価値観を持つ国々との連携を深め、中国等の脅威への抑止を徹底する」ことを外交方針に据えた。河野氏は石破氏と同様、国連が上手く機能しているとは言えない状況にあると指摘している。
そのうえで、日米同盟が基軸になると思うとしつつ、「今のアメリカの政治状況を見ていると、それだけで物事が万事うまく行きます、というわけには行かないだろう」と語る。9月8日の YouTube ライブでは、日本の NATO 加盟という選択肢が「将来的にはあってもよい」と発言した。
上川陽子
上川氏は、「安全保障戦略の第一の要諦は外交にある」と述べて「岸田・上川外交の進化」を掲げる。日米同盟を基軸とした現政権の方針を維持したうえで、紛争予防に女性の参画が必要だとする WPS(Women, Peace and Security)を推進すると訴えた。
防衛増税についても、「防衛力を整備していく方向性について、予算の見通しも立てて審議いただき結論が出ている状況だ」と述べ、現政権の方針を継続する認識を示している。
小林鷹之
小林氏は、外交・安全保障を3つの柱の最後の1つと位置付けた。
具体的には、自衛官の待遇の抜本的改善、日本初の経済安全保障戦略の策定などを進めると述べている。さらに、新たな外交戦略・BRIDGE を進め、グローバルサウス諸国との橋渡しを日本がおこなうことで、日本の国益にかなう国際秩序を維持するとした。
5. 憲法改正
5つ目は、憲法改正だ。前提として、自民党は2012年に「日本国憲法改正草案」を決定しており、今回の各候補者とも基本的に同草案に沿った改正の実現を目指しているため、彼らの間に大きな違いは見られない。
そのうえで、これが実現のハードルが高い政策であることもたしかだろう。というのも、歴代最長の政権を築いた故・安倍晋三ですら、実現どころか改正の手続きにすら入れなかったからだ。
憲法改正、選択的夫婦別姓(筆者作成)
石破茂
石破氏は「憲法改正は党で決めた路線を維持してまいります」と説明し、前述した草案に基づく改正を目指す考えを示している。
特に石破氏は、憲法改正特に9条2項(戦力の不保持と交戦権の否認を定めた条文)の削除を訴えてきた。今回の総裁選前の7月にも、「自衛隊は戦力なのだ」ということを憲法に明記し、「9条2項は削除すべき」と発言している。
小泉進次郎
小泉氏も、「新しい日本を作るうえで、憲法改正は最優先で取り組む課題です」と述べる。
具体的には、「少なくとも自衛隊の明記、緊急事態対応、合区解消、教育充実の4項目は時代の要請であり、改正しなければなりません」と訴えている(*2)。
そして、9月16日の産経新聞とのインタビューで「たとえ否決される可能性があっても(国民投票の)機会を持ちたい」と発言した。
(*2)合区とは、参議院選挙で隣接する県を「鳥取・島根」や「高知・徳島」のように、1つの選挙区にまとめることを指す。地方の声が届きにくくなると指摘される他、これを改憲で実現するか法改正で対応可能かについては、自民党内でも議論がある。
高市早苗
高市氏は、「日本人の手による新しい日本国憲法」の制定を掲げている。
9日の出馬表明会見では「(自衛隊を)実力組織として揺るぎない位置付けをするために、私は日本国憲法を改正いたします」と語った。
ただ、改正案の提出時期については、「今余談を持って申し上げることはできませんが、 できるだけ早くということについては、現在の岸田総裁のお考えと、私は同じでございます」として明言しなかった。
河野太郎
河野氏も、「党としての考え方に基づき、国会の議論を加速し速やかな発議を目指す」として、自衛隊の明記といった憲法改正を積極的に進めたい考えだ。
そのうえで同氏は、前述した国際状況や外交戦略を念頭に、共通の価値観を持った国々との連携を考える際に、「どういう憲法がふさわしいのか、これは当然議論しないといけない」と述べて、現時点での草案に沿わない形での改正の可能性も示唆している。
上川陽子
上川氏は、「国民と対話し、憲法改正を実現する」と謳った。
なお、出馬表明会見で、改正に向けたタイムスパンを問われた際は「国会での議論につきましては加速をしていきたい」と述べるにとどめ、具体的な展望には言及しなかった。
小林鷹之
小林氏は、「時代の変化・要請に即した自主憲法制定に尽力」することを前提に、「憲法改正はもはや先送りできない最重要課題」と主張した。特に、自衛隊の明記と緊急事態条項の新設について、優先的に取り組むとしている。
6. 選択的夫婦別姓
6つ目は、選択的夫婦別姓制度の導入だ。
菅義偉政権(2020年9月〜2021年10月)以降に活発化した同制度の導入議論は、自民党の保守派議員の反発などを受けてきた。今年7月の NHK 世論調査では、回答者の 59% が賛成、24% が反対となっており、世論と政権の考え方に乖離がある。
石破茂
石破氏は、選択的夫婦別姓の推進に前向きな姿勢を見せている。
7月29日の BS-TBS・報道1930 の中で、「夫婦別姓になってしまうと家庭が崩壊するというなんだかよく分からない理屈があり、私は(本制度の導入を)やらないという理由がよく分からない」と述べ、8月24日の出馬会見で「私は、選択的に姓を選べるというのはあるべきだと思っています」と発言している。
小泉進次郎
小泉氏は、選択的夫婦別姓について、特に前向きな姿勢を表明している候補だ。
9月6日の出馬会見では「もう議論ではなく、決着をつける時ではないでしょうか」と述べて、自身が総裁となった暁には、選択的夫婦別姓を認める法案を国会に提出し、1年以内に成立させる考えを示した。
高市早苗
高市氏は、選択的夫婦別姓について否定的な考えを繰り返し示してきた。
たとえば、7月23日に出演した YouTube 番組・真相深入り! 虎ノ門ニュースで、安倍元首相から「夫婦別氏、あれはダメだよ」と言われたことを回顧しつつ、「せめて戸籍上のファミリーネーム、家族一体とした氏は残したい」と発言した。自身の YouTube チャンネルでも、「安倍晋三元総理の遺言とも言える重要課題」だとして、同制度の導入に反対している。
9月9日の出馬表明会見では、「できるだけ多くの方が不便を感じない、その第一歩となる法律をまず成立させたい」として、旧姓の通称使用拡大を訴えた。
河野太郎
河野氏は、選択的夫婦別姓を認める考えだ。
同氏は、8月26日の立候補表明会見の場で、選択的夫婦別姓について「私は認めた方がよいと思っております」と発言している。
上川陽子
上川氏は、選択的夫婦別姓の推進について慎重な姿勢を見せる。
同氏は、個人的には賛成だとしつつ、議論を急げば社会を分断するリスクもあると語っている。「国民対話の中で一致した思いでつくり上げることが大事だ」という考えや、「分断をしてしまうのではないか、といった状態を残したまま決定してしまうということは、ある意味では日本の力を削ぐことにもつながりねない」といった発言をするなど、早々に結論を出す構えの小泉氏などとは距離を取った。
小林鷹之
小林氏は、選択的夫婦別姓の推進に後ろ向きな姿勢を見せている。
同氏は「不便・不利益を被っている方々がいることは認識している」としつつ、そうした「不便さを解消していくニーズ」の高まりに合わせて、1つのアプローチとして「旧姓の通称使用、これを広げていくことが大切」だと述べた。
そのうえで、「期限を区切って結論をある意味強引に出すということは、私は違うと思ってます」としている。これは、前述した小泉氏の方針(1年以内の法制度化を目指す意向)を念頭に置いた質問に対する回答だ。小林氏は、「むしろ時間がかかっても丁寧にみんなで議論して、落ち着くべきコンセンサスを丁寧に模索していくことが政治の要諦」だとした。
ここまで触れてきたように、今回の総裁選は史上最多の9名が立候補し、派閥が解体された中でおこなわれる選挙戦だ。各候補者の間で、足並みの揃う政策や大きく方針の違う政策、方針が同じでも議論の進め方をめぐって微妙な違いが見られる課題もあり、27日の投開票に向けて今後もさらなる論戦が交わされるだろう。