Daytime in Otaru, Japan(KWON YOUN, Unsplash) , Illustration by The HEADLINE

中国などの外国人、北海道の土地を次々買収? = その理由や懸念は…

公開日 2023年02月27日 21:39,

更新日 2023年09月08日 17:09,

有料記事 / 国内 / 社会

この記事のまとめ
北海道を中心に、全国で外国人などによる土地取得が進行

[背景]
⏩ 土地資産を持てない中国の規制事情
⏩ 外資の土地取得を制限していない日本の法制度

[懸念]
⏩ 固定資産税などの徴収
⏩ 安全保障上のリスク
⏩ 一方、その経済効果も

「自然に満ち満ちたこの土地を外国人に売らないで欲しい」。昨年9月、札幌市内で開催されたコンサートで、歌手の長渕剛氏はこう訴えた。北海道を中心として進む、外国人や外国法人による土地の買収に大きな関心が集まっている。

北海道庁のまとめによると、2012年から2021年までの10年間で外国人などによる取得が確認された道内の森林面積は約3倍に拡大した。なかには水源地も含まれており、数年前からはこうした「水源地買収」の行方にも注目が集まっている。

また、外国人などによる土地取得は安全保障の観点からも重要な意味を持つ。2014年には、航空自衛隊千歳基地近くの広大な土地が中国資本によって取得され、安全保障上の懸念が議論される事態になった。

では、外資による土地の買収は一体どのような実態となっているのか。そして、それらは一体どのような問題をはらんでいるのだろうか?

なお、本記事では便宜上「外資」を外国人および外国法人を包括的に意味する語として用いる。

外資による土地取得の規模

外資による土地取得の実態調査が始まったのは、つい最近のことだ。さらに、現在でも調査が行われているのは森林と農地に限定されており、その他の用地に関する外資による土地取得の実態は、明らかになっていない(*1)

(*1)森林取得は森林法にもとづいて市町村長への事後届出が必要であり、農地取得も農地法によって管理・規制されている。

外資による森林と農地の取得実態

まず森林については、農林水産省が2006年度から外資による取得実態を調査している。2021年までの16年間で外資(*2)による取得が確認された森林面積は全国で合計2,614haで、これは東京都品川区の面積に匹敵する。

なかでも大きな割合を占めるのが北海道での土地取得だ。北海道庁によると2021年末時点で外資が道内で所有する森林面積は合計3,153haとなっている(*3)

なお、北海道でも特に土地取得が進んでいるのが、リゾート地としての人気が高いニセコ町や倶知安(くっちゃん)町だ。両町内で外資が所有する森林面積は合計969haと、道全体の外資所有森林面積の約30%を占める。

一方、森林と比較すると農地の取得はさほど進んでいない。農林水産省によると、2017年から2021年までの5年間で「外国法人または海外に居住する外国人」による農地取得事例は、1件のみで取得面積は0.1haだ。

調査の対象を「外国法人または海外に居住する外国人が議決権を有する法人」にまで広げると、農地を取得した法人は累計6社、合計面積は67.6haとなる(*4)。なお、農地法の規制上、これらの法人でも外国法人の議決権割合は必ず49%以下となっている。

森林と農地での取得実態の差の背景には、農地の取引を規制する農地法の影響があるが、詳細は後述する。

(*2)居住地が海外にある外国法人または外国人と思われる者。
(*3)政府調査分は2006年度からの累計のみ把握しており、道内の外資所有森林面積よりも少なくなっている。
(*4)調査の対象には海外に居住する外国人が役員となっている法人も含む。

土地取得を進める外資の国籍

次に、土地取得を進める外資の国籍を確認しよう。

まず森林について、年ごとに公表される取得者の住所地を整理すると、2021年に国内で森林を取得した外資19件の国籍は以下のようになる。

中国:1件
香港:5件
マカオ:2件
アメリカ:2件
カナダ:1件
シンガポール:3件
オーストラリア:4件
英領バージン諸島:1件

2021年のデータでは、香港を含めた中国資本による取得がわずか6件となっているが、これにはコロナ禍が影響している可能性が高い。例えば、2019年のデータは以下のようになる。

中国:2件
香港:16件
シンガポール:4件
オーストラリア:3件
英領バージン諸島:2件
タイ:3件
サモア:1件

合計31件の土地取得のうち、18件が香港を含む中国資本によるものだった。中国資本による土地取得が目立つ一方、シンガポールやオーストラリア、あるいは課税回避地として知られる英領バージン諸島に籍を置く外資による取得も一定の割合を占めている。

農地については、土地取得案件そのものが少ないが、愛媛県や茨城県などで香港籍の法人が議決権を有する法人が農地を取得している一方、北海道ではフランス資本が議決権を有する法人の農地取得が進んでいるが、これはすべて函館市に拠点を置く同一のワイナリーによるものと見られる。

なぜ外資は土地を買うのか?

外資が日本で土地を買い求める理由は、様々だ。農林水産省発表による、2019年に外資が取得した森林31件の利用目的を整理すると以下のようになる。

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✍🏻 著者
シニアリサーチャー
北海道大学大学院農学院博士後期課程。専門は農業政策の決定過程。一橋大学法学部卒。
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