⏩ ホロコースト軽視の党が第2党という状況に「ファシズム2.0」の声も
⏩ 右翼知識人たちがプーチンの盟友の思想を受容
⏩ 東部で AfD が圧倒的支持を獲得、国内に残る見えない「壁」とは
エリートに対する批判が世界的に高まる中、その傾向の最新事例がドイツから飛び込んできた。
2月23日(現地時間)におこなわれたドイツの総選挙で、極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)が同 20.8% で第2党に躍り出た(得票率は2021年総選挙の約2倍)(*1)。
AfD は、反既得権益、反移民、反イスラム、ホロコースト軽視などの主張を展開している。そのため、AfD の一部派閥はドイツの諜報機関から、「過激派」そして「民主主義に危険」をもたらす存在とされてきた(太字は筆者による、以下同様)。
ドイツでは、「決して忘れるな」のフレーズで知られるように、ホロコーストの罪と向き合うことが歴史的な課題だ。そして戦後の政治改革を経る中で、同国はリベラルな民主主義の模範生とも考えられてきた。事実、ドイツ政界では何十年もの間、極右勢力と協力しないというファイアウォール(防火壁)が維持されていた。
以上の点を踏まえると、AfD の伸長は注目に値する。そしてそれは、ドイツに固有の現象ではなく、現在世界で進行しつつある構造的な変化の一環として理解すべきだろう。
その意味で、アメリカの J.D.ヴァンス副大統領や起業家のイーロン・マスクによる AfD の支持は、無視できない。地元紙・南ドイツ新聞は、「AfD のリーダーが言うことを聞いてみると、アメリカと似ている」と指摘する。
しかし、AfD が掲げる反既得権益の思想には、アメリカだけでなくロシア新右翼の知識人やネットワークも力を借している。
なぜホロコーストを軽視し、民主主義に「危険」をもたらす AfD が力を増しているのだろうか。その事実は、世界における構造的な変化とどう関係しているのだろうか。
(*1)最大野党会派の中道右派であるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が、得票率 28.6% で第1党となった。現与党の中道左派・社会民主党(SPD)は同 16.4% で3位だった。
ファシズム2.0?
2013年に創設された AfD は当初、EU 離脱を掲げて注目を集めたが、2015年にドイツ(当時はメルケル政権)が100万人を超える難民を受け入れた頃から、反移民へと方針を転換し始めた。
現在まで AfD の共同党首を務めるアリス・ヴァイデルは、「再移民」(Remigration)という言葉を使い、移民の追放を訴えている。これは、ナチス時代にユダヤ人の強制移住を指すために使われた。近年は、オーストリアの極右活動家であるマルティン・ゼルナーなどがドイツ語圏で広めており、市民権の有無にかかわらず、ドイツ文化に溶け込むことを拒否する移民の強制排除を指す。
アリス・ヴァイデル(Sandro Halank, CC BY-SA 4.0)