新型コロナウィルスの感染拡大により、出勤による感染リスクを避けるために、企業がリモートワークを導入する動きが広がっている。2020年3月から北米オフィスの全従業員に在宅勤務を要請していたGoogleは、2021年7月までリモートワーク期間を延長した。FacebookやTwitterなども、リモートワーク期間の延長や無期限導入の動きを見せている。
労働者側もまた、リモートワークを求める向きがある。業務の自動化ソフトを提供するZapier社の2019年のレポートによると、調査対象である900人近いアメリカの知識労働者のうち95%がリモートワークを望んでおり、74%はリモートワークのために仕事を辞めることをいとわないとしている。
また、イギリスの人材紹介会社CapabilityJaneの分析では、若者や女性を中心にイギリスの労働者の多くは柔軟な働き方を求めており、人材管理の協会組織であるCIPDは、雇用者側にオープンな組織体制を検討するようガイドラインを定めている。
こうしたリモートワークの広がりに対し、オフィスワークとの違いや生産性の疑問視などから、労働者側のニーズにもかかわらず、なかなか日本ではリモートワークが広がらない現状がある。
リモートワークは生産性をあげることができるのか、リモートワークのメリットとデメリットに鑑みた上で検討することとしたい。
オフィスワークにかかるコスト
そもそも、従来主流とされてきた対面でのオフィスワークは、リモートワークと比較してどのようなコストを払っているのだろうか。
通勤のコスト
従来のオフィスワークにおいて、特にコロナ禍との関連で問題化されたのは通勤である。新型コロナウィルスの流行以前から、通勤は労働上のコストとして問題視されていた。2018年時点で、アメリカの労働者の平均通勤時間は年間225時間であり、片道あたりの通勤時間は郊外化や交通インフラへの支出減などで増加傾向にあった。通勤の長時間化は肥満率や高血圧、離婚率、子どもの社会的・感情的問題の上昇と相関しているとされており、労働面だけでなく、健康や家庭、育児面でもリスクと見なされていた。ハーバード・ビジネスレビューによれば、アメリカでは通勤時間がなくなったことで毎週約8900万時間を節約することができており、これはパンデミック以降で計算した場合、4450万労働日に相当する。
とはいえ、通勤がこのまま消え去るわけではない。交通利用に関するイギリス政府の調査では、鉄道やバスの利用は半減しているものの、自動車は9割ほどに回復していることが明らかにされている。この調査は利用目的別の統計ではないものの、少なくともこうした交通利用の中に通勤が含まれていることは間違いない。パンデミック以降、企業は感染リスクの低い通勤手段や業務時間の柔軟化、駐車料金の扱いなど、通勤環境の改善という課題を抱えることとなった。
通勤のあり方の変化を受けて、オフィスそのものもコストのかかる存在と見なされ、撤退や縮小や分散などの方策が取られるようになりつつある。しかし、後述するリモートワークのデメリットに鑑みても、通勤という課題は依然として存続すると考えられる。
オフィスの非効率性
オフィスでの仕事自体が抱える非効率性も、パンデミック以前から指摘されてきた。ガバナンステクノロジー企業eShareによる2018年の調査によれば、イギリスのオフィスワーカーは毎週平均10時間42分を費やして、平均4.4回の会議の準備や参加をおこなっているが、このうち2.6回は不要だと考えている。会議の出席者数が平均して6.8人であることから、1企業あたり年間で3万5000ポンド(約490万円)を超える無駄なコストが発生している。これは540万の企業が存在するイギリス全体では1900億ポンドものコストになると試算されている。また、同調査では、これらの会議は数通のメールで代替可能であるにもかかわらず、会議や資料のデジタル化が欠如していると、52%のオフィスワーカーが主張していた。
では、こうしたコストや課題を抱えてきたオフィスワークに比べて、リモートワークにはどんなメリットがあるのだろうか。