10年前の2011年3月11日、観測史上最大規模となる東日本大震災が起きた。東北地方を中心として、12都道県で約2万2000人の死者(震災関連死を含む)・行方不明者が発生した他、東京電力の福島第一原発も炉心溶融(メルトダウン)を起こすなど、甚大な被害をもたらした。
福島第一原発では廃炉作業が進められているものの、日本政府は2050年までのカーボンニュートラルを達成するため、原子力発電を「可能な限り依存度は低減しつつも、引き続き最大限活用」すると宣言している。
果たして、福島第一原発ではいま何が起こり、そして日本の原発やエネルギー政策はどのような状況にあるのだろうか。
原発の廃炉作業、今後30年も
福島第一原発では、現在も廃炉作業が続いている。
事故当時、同原発では1・2・3号機が運転中で、4・5・6号機は定期検査中だった。しかし全ての原子炉が事故被害を受けており、安全に原発を廃止・解体する作業が今でも進行中だ。
この廃炉作業は、第1期から第3期まで3つの工程に分けられており、計画では2021年に第2期が終了する予定となっている。しかし作業は難航して遅延が予想されると共に、第3期が終わるのは2011年から3-40年後と計画される。
今後も少なくとも2-30年を経なければ、福島第一原発が安全に廃炉されることはない。
2020年、福島第一原子力発電所を視察する菅総理(Kantei, CC BY 4.0)
デブリの取り出し
廃炉作業にこれほど膨大な時間がかかるのは、溶け落ちた核燃料が金属などと混じった、いわゆる燃料デブリと呼ばれる物体の取り出しが困難を極めるためだ。
燃料デブリは強い放射線を出すため、ロボットによる遠隔操作でなければ取り出せないが、1・2・3号機の中でどのように蓄積されているか正確には分かっていない。推定880トンにも及ぶ燃料デブリを安全に取り出すため、国や東京電力、研究機関などが装置を開発しているが、「固まっているデブリをどのように切り出して、取り出してくるかは、まだ具体的な工法が見えているとはいえない」状況だ。
取り出した燃料デブリなどの廃棄物をどのように処理・処分するか、廃炉作業が終わった後の福島第一原発の敷地をどのようにするか、など決定していない事項も多く、廃炉作業は道半ばだと言える。
今も続く汚染水の議論
また現在でも議論が続いているのは、汚染水の問題だ。
雨水や地下水は、原子炉の建屋の屋根や壁などから流れ込み、燃料デブリに触れることで放射性物質を含んだ汚染水となる。この汚染水は、現在1,000基を超えるタンクとして、福島第一原発の中に貯蔵されている。汚染水をどのように処理するかが、事故から10年経った現在でも、決定できていない。
この問題は、科学的な議論ではなく政治的な議論であることがポイントだ。
実は、汚染水に含まれる大半の放射性物質について、技術的には取り除くこと出来る。しかしトリチウムと呼ばれる物質だけは取り除くことが出来ず、国際的な基準では、一定度のトリチウムが含まれた水であれば、海洋放出が認められている。すなわち、現在タンクに貯蔵されている汚染水は、適切な処理を施せば海洋あるいは大気放出が可能なのだ。実際、国際原子力機関(IAEA)も日本政府による処分が決定すれば、協力を申し出ている。
しかし「海洋放出によって水産物を中心に風評被害が避けられない」ため、地元住民や環境団体などの反発は根強い。そのため政府は、昨年10月に予定されていた海洋放出の処分決定を見送っている。タンクの容量は約137万トンとなっており、増設計画がないことから、2022年夏頃には満杯となる予定だ。タイムリミットが迫る中で、政治的決断が求められる。
安全なデブリの取り出しという技術的課題と、汚染水の処理という政治・社会的な課題が、福島第一原発の直接的な大きな2つの問題だと言える。
膨大な費用
これらの問題への対応には、当然ながら膨大な費用がかかってくる。