今月24日、東京・港区にある地下鉄・白金高輪駅で男性が顔に硫酸をかけられて大けがをした事件で、警視庁は28日、容疑者の男性を逮捕した。容疑者は、大学時代に被害者と同じサークルだったものの、現時点で詳しい動機などは分かっていない。
硫酸や塩酸、硝酸などの酸を顔や頭部にかけて火傷を負わせることをアシッドアタックと呼ぶ。今回の被害者は男性だが、世界的には若い女性が被害者となるケースが多く、身体的な損傷に限らず、精神的損害や社会的孤立、経済的安定などその後の生活に深刻な影響を及ぼす攻撃として知られている。
アシッドアタックとは何であり、世界でどのような現状にあるのだろうか?
アシッドアタックとは何か
アシッドアタックは、硫酸や硝酸、塩酸などの化学熱傷によって皮膚を損傷させる攻撃だ。熱によるものではないが、火傷と似た症状が見られるため、火傷の一種として分類される。誰かを傷つけたり、拷問したり、時には殺害する目的でおこなわれるが、「生存者を永久に傷つける手段」として深刻な影響をもたらす。
南アジアでのアシッドアタック
本誌で説明したフェミサイドと関連付けて語られることも多く、世界で毎年確認されている1,500件のアシッドアタックのうち、約80%は女性や少女に対する攻撃だ。フェミサイドの被害が深刻な南アジアや中東、東南アジアなど、女性が人権侵害に直面する可能性が高い地域において、アシッドアタックが報告されることも多い。
たとえばバングラデシュは近年になり発生率が低下しているものの、過去には「世界で最もアシッドアタックの多い国」と言われており、同国における火傷のうち「酸による火傷」は全体の9%を占めると報告されていた。2011年の報告によれば、パキスタンでは1994年以降で8,800人以上がアシッドアタックの被害にあっており、インドでは2014年から2018年の間に1,483人のアシッドアタックによる被害者が確認されている。
ただしこうした地域では、報復の恐れや恐怖、加害者が被害者の夫や家族であることなどを理由として、事件が報告されないケースも多く、その正確な数字は分かっていない。いずれにしても、こうした地域では
- ジェンダー不平等や差別
- 酸への入手の容易さ
- アシッドアタックの加害者に対する免責
という3つの関連する要因によって、酸を用いた暴力が蔓延している。
英国でのアシッドアタック
しかしこの問題は、南アジアだけに留まらない。いま注目を集めているのが、英国におけるアシッドアタックだ。