今春から囁かれ始めていたインフレに対する懸念が、ますます強まっている。米・連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、8月に開催されたジャクソンホール会議(*1)において「インフレ圧力は一時的」としつつも「様々なデータを注意深く観察している」と警戒感を示した。
FRBは、今月3日に「量的緩和」政策の縮小(テーパリング)を決定したが、そこでも最も関心を集めたのは、彼らが今後インフレをうまくコントロールできるかだった。
なぜコロナ後の世界でインフレが懸念されており、今後どのようなシナリオが考えられるのだろうか?そして、人々の生活にどのような影響があるのだろうか?
(*1)毎年夏に、中央銀行関係者や経済学者らによって景気動向や金融政策などが議論されるシンポジウム。米西部ワイオミング州にあるジャクソンホールで開催されるため、このように呼ばれる。
そもそもインフレとは
そもそもインフレとはインフレーション(inflation、物価上昇)の略称であり、モノやサービスの価格(物価)が上昇することを指す。たとえば、昨年まで500円で購入できていたパンの価格が、今年に入ってから520円になった場合、そのモノの価格は上昇している。
また、物価の上昇とは通貨の価値が下落していると見ることもできるため、たとえば日本でインフレが起きた場合は、日本円の価値が下落しているとも言える。
経済学者のフィリップ・ケーガンは、月次50%以上の物価上昇が見られた場合をハイパーインフレーションと定義している。たとえば2008年頃のジンバブエは、パン一斤の価格が短期間で、200万ジンバブエドルから3500万ジンバブエドルにまで急騰し、ハイパーインフレーションの代表例として知られている。
歴史的に激しいインフレが起こったケースは珍しくなく、第一次世界大戦後のドイツ(その後ナチが台頭)やソビエト連邦崩壊後の周辺国などの事例が知られている。最近でも、2018年前後に石油価格の下落や政治的腐敗などに直面したベネズエラがインフレ危機に見舞われ、経済の崩壊によって人口の10分の1にあたる300万人が国を離れた。
過度なインフレは単に経済的な混乱を招くだけでなく、政治的・社会的な混乱につながる可能性もある。
良いインフレ
とはいえ、インフレが一概に悪いわけではない。
FRBは「物価の安定」と「雇用の最大化」を目指して、2%というインフレ率を目標として掲げている。低く安定したインフレ率によって、企業や家計は貯蓄や借入、投資などに関して適切な決定を下すことができ、健全な経済活動をおこなうことができるからだ。