トヨタ自動車やSUBARUが、期間従業員への支給金を2倍にすることを日本経済新聞が報じている。期間従業員とは、期間が定められた労働契約を結ぶ労働者のことで、かつては季節工と呼ばれていた。
報道によれば、自動車各社は以下のように待遇改善を進めている。
- トヨタ自動車:期間従業員2200人から2600~2800人に増加。支給金を20万円(2倍)に。
- SUBARU:支給金を40万円(2倍)に増額。
- マツダ:期間従業員、約350人を増加。
これ以外にも、製造業や飲食業、アマゾンジャパンなどの物流で時給アップの動きが進んでいる。各社が待遇改善を進める背景には、新型コロナによって落ち込んだ経済の回復を見込んだ人手確保の狙いがある。
重要な理由
このニュースが重要な理由は、これからの経済の回復において①生産能力の拡大と②人手不足の解消が鍵を握っていくからだ。
自動車やPC、家電などの製造業では、コロナ禍からの景気回復に伴って生産能力の拡大が進められてきた。しかし部品調達の遅れと労働者の不足によって生産は思うように進んでおらず、サプライチェーン(物流)の混乱によって出荷にも遅れが目立っている。
世界的な自動車メーカーであるトヨタも例外ではなく、8月以降は自動車部品の供給不足によって自動車の減産(生産量を減らすこと)に悩まされてきた。需要の高まりによって、同社は売上・利益ともに過去最高となったが、原材料価格の高騰によって今後の収益が圧迫される可能性も指摘されている。
同じくホテルやレストランなどのサービス業も、営業再開に伴って労働力を必要としているが、応募が足りていない状況だ。
これは日本に限らず、米国をはじめとして世界各国で生じている問題だ。たとえば米国では、9月に440万人という記録的な数の労働者が退職しており、人件費の高騰が続いている。フランスやドイツ、オランダなどでも求人数の増加が報じられており、いずれも人手不足に悩まされている。
日本でもグローバル経済の影響を受けやすい自動車メーカーや、時短解除によって労働力が必要となる飲食業などで、生産能力の拡大と人手不足の解消という問題が顕在化してきたというわけだ。
背景
このニュースが重要な理由は、世界中で起きている①供給不足と②構造的な労働力不足を反映しているからだ。
世界では、半導体不足やサプライチェーンの混乱などによって供給不足が起こっており、その結果としてインフレが進行している。10月の米国の消費者物価指数(CPI)は、前年同期比で6.2%上昇しており、過去30年で最大の伸びを示している。
また労働者不足は、一時的な出来事ではない。コロナ禍によって移民が制限されたことなど一時的な要因もあるが、高齢化は米国や日本などの先進国に共通する要素であり、高齢化した熟練労働者の不足が、各国の労働力不足の構造的背景にあると言われる。日本も、外国人労働者の受け入れを拡大するとも報じられており、人手不足はますます顕著になっていきそうだ。
世界中でインフレが警戒される中、30年近いデフレに苦しんできた日本経済が、コロナ禍を経て賃上げや物価上昇に至るかが、今後の経済にとって1つの焦点となっていくだろう。