パリでは2月28日から3月8日まで、2022秋冬シーズンのファッション・ウィーク(レディース)が行われた。100弱のブランドがショーをおこない、新作コレクションを発表した。
毎年恒例の煌びやかなイベントの裏で、ファッション・アパレル業界や繊維産業は変革を迫られている。今年1月にフランスである法律が施行された。その名も「循環型経済のための廃棄対策法」。規定によって、衣料品の売れ残った新品を廃棄することが禁止されたのだ。
衣料品が廃棄され焼却処分されるのを防ぎ、売れ残り品は慈善団体に寄付したり中古品市場に流通させることが推進されるという。食品以外の製品の在庫廃棄規制に乗り出したのは世界でも例がない。
ではなぜこのような法律が成立したのだろうか。その理由は、環境問題にある。
繊維産業は、石油産業に次いで世界で2番目に環境を汚染する産業として知られている。繊維産業による温室効果ガスの排出量は飛行機や船による排出量合計を上回っており、また綿素材の生産や染織において水資源を大量に必要とすることも、環境負荷が高い原因となっている。
日本でもファッション業界のサスティナビリティが議論され始めている。環境省の資料では、服作りの環境負荷の高さ、年々服の値段が下がり大量生産・大量消費に拍車がかかっている状況、そして廃棄量の多さが問題としてあげられている。
以上のような論点から考えれば、世界のファッション業界をリードするフランスでこのような法規制が実現したのは歓迎すべきことなのは間違いない。しかし新品衣服の廃棄禁止は、本当にファッション業界と繊維産業の抱える問題を解決することにつながるのだろうか。
本記事では、当業界がサスティナブルな産業構造への転換を目指すようになった経緯や、すでにおこなわれているさまざまな取り組みに触れつつ、業界の抱える問題について見ていこう。
廃棄対策法成立の経緯
すでに述べた通り、今回取り上げる法律の背景には、繊維産業の環境汚染という問題がある。フランス政府は法律の意図について、環境への影響を抑えるために、企業がより無駄のない形で在庫を管理し、汚染を減らすことが目的だと説明している。
法案は「食品でない売れ残り品の廃棄を禁止する条項」として2019年12月に全会一致で可決され、2年以上の期間をおいて今年元旦から施行された。在庫廃棄禁止は、売り手や作り手に負担を強いる規制だが、この間業界からこの新たな法律への反発の声はほとんど聞かれない。その背景には、近年のファッション業界全体の方向性がある。
サスティナビリティを標榜する強い潮流
2010年代後半以降、ファッション業界全体はサスティナブルな産業構造を目指す潮流にある。特にここ数年は、ラグジュアリーブランドも積極的に環境汚染や動物愛護などの問題への取り組みをアピールし、「エシカルな消費文化」に商機を見出すようになっている。
本法案が可決される4ヶ月前の2019年8月、フランスのビアリッツで開催されたG7では、マクロン大統領と Kering(ケリング)のCEOなどが協力して「ファッション協定」が組織された。この枠組みは、ファッションブランドから流通業まで多数の企業が連携し、温暖化抑止、生物多様性保護、海洋保護の3分野において、共通の目標に向かって取り組むことが趣旨である。
Gucci(グッチ)やBALENCIAGA(バレンシアガ)など多数の有名ブランドを傘下に抱えるケリング、フランス)をはじめ、STELLA McCARTNEY(ステラ・マッカートニー、英国)、NIKE(米国)、H&M(スウェーデン)などさまざまなブランドや企業の名前が賛同者にリストアップされている。
このようにファッション業界は、環境問題をはじめサスティナビリティへの取り組みを明確化しており、大統領との協働からも伺えるように、むしろ積極的に政治の場での規制作りをサポートしていると考えて良い。
ファッション業界の変化の経緯
では、なぜこのような傾向が生まれたのだろうか?以下では、2010年代以降の変化を ①ファストファッションの環境・労働問題と ②ラグジュアリーブランドの環境問題に分けて整理してみよう。
ファストファッションの流行
世界の服の販売量は、21世紀を通して増え続けている。国連の調査では、2000年から2014年までの間に衣服の生産量は倍増し、一人当たり60%も多くの商品を購入するようになった。さらに1着の服の寿命は半分の長さになった。この調査報告書には「当産業は、疑いなくファストファッションの時代へと入ったのだ」と記されている。