「エシカル〇〇」という言葉を街中やネット上で見かけることが多くなった。エシカルファッションやエシカル就活。最近では大手コンビニのセブンイレブンが「エシカルプロジェクト」と名づけたキャンペーンを全国で展開している。
エシカル(ethical)とは英語で「倫理的」という意味だ。例えば、エシカルファッションは「倫理的なファッション」、すなわち倫理的な問題に配慮して生産されたファッションという意味になる。
このように商品やサービスに倫理性を求める消費行動はエシカル消費と呼ばれ、SDGsが認知度を高めるなかで注目を集めている。また、欧米では単なる消費行動の概念としてだけではなく、政治的な現象としての側面にも注目が集まっている。
では、エシカル消費とはそもそも、どのような倫理性に配慮したもので、なぜいま注目が集まっているのか。そして、一体どのような課題を抱えているのだろうか。
エシカル消費とは何か?
エシカル消費(ethical consumption)は直訳すると「倫理的な消費」であり、倫理的な問題への配慮を踏まえた消費行動のことを指す。ただし、このままでは倫理的な問題とは一体何を指すのか、定義が曖昧だ。
エシカル消費における倫理的問題について明確な定義はないものの、1980年代からエシカル消費の概念を掲げ、消費者向けの情報提供サービスを行うロブ・ハリスンは、エシカル消費における倫理的問題を大きく3つに分けている。
エシカル消費における3つの倫理的問題
ここで挙げられている倫理的問題とは、①環境問題、②人権・労働問題、③アニマルウェルフェアの3つだ。
1つ目の環境問題には気候変動に加えて、水質汚染や生物多様性の問題も含まれており、「環境への悪影響を与えないこと」が倫理的であると評価される。
2つ目の人権・労働問題とは、商品やサービスのサプライチェーンでの人権侵害に関わるもので、原料生産国での児童労働や強制労働が問題となる。
3つ目のアニマルウェルフェアとは、動物福祉とも訳される概念だ。これは家畜動物などが不要な苦痛を受けずに快適な環境で飼育されることを指す。ただし、注意すべきは、動物にも人間と等しく権利を認め、動物の屠畜などに反対するアニマルライツとは異なる概念である点だ。アニマルウェルフェアはあくまでも人間が家畜を利用することを前提としており、エシカル消費の観点では「動物福祉に配慮して生産されたこと」が倫理性の基準となる。
エシカル消費とはどのような購買行動なのか?
では、エシカル消費とは具体的に、どのような購買行動なのだろうか。エシカル消費の代表例であるファッションを例に見てみよう。
エシカル度合いをスコア化
エシカル消費は、ある商品について「これが倫理的かどうか」を判断するために商品のサプライチェーンについて詳細な情報が必要となる。そこで、いくつかのNGOなどは様々なジャンルでブランドごとにサプライチェーンを調査し、”エシカル度合い”を公表している。
こうした情報提供サービスの先駆者が、先にも紹介したロブ・ハリスン氏率いる Ethical Consumer Research Association(ECRA)だ。イギリス・ロンドンに拠点を置くECRAは独自の調査に基づいて、商品ジャンルごとに各ブランドのエシカル度合いをスコア化し、「買うべきもの」(Best Buys)と「買うことを避けるべきもの」を消費者に提案している。
ECRAがウェブサイトで公開しているファッションのデザイナーズブランドのスコア一覧によると、スコアトップのブランドは「ステラ マッカートニー」で13.5点、一方で最下位の2.5点には「フェンディ」、「ジバンシィ」、「ケンゾー」、「ロエベ」、「ルイ ヴィトン」、「マーク ジェイコブス」の6つが並んでいる。
なお、このスコアは14点満点で、先に挙げた環境問題、人権・労働問題、アニマルウェルフェアの各項目に、タックスヘイヴン(租税回避地)の利用状況などを加えた計18の項目を設定し、各項目につき1点もしくは0.5点を14点から減点する形で算出される。
また、こうしたスコアを表示する以外に、ECRAは商品ごとに消費者が意識すべきポイントも明示している。例えば、バナナであれば、以下の項目を満たす商品はポジティブに評価される。
・オーガニックであること(環境負荷が少ない)
・フェアトレードであること(バナナ生産国である途上国の労働者保護を保障)
一方、以下の項目に当てはまる場合は買うことを避けるよう推奨されている。
・バナナプランテーションでの組合活動の制限
・過剰な施肥による水質汚濁
・プランテーションで女性差別が確認されている
ボイコットとバイコット
ECRAの取り組みが示すように、エシカル消費は「エシカルではない商品を買わない」と「エシカルな商品を買う」という2つの側面によって成り立っている。前者はいわゆるボイコット(不買運動)として一般的に知られている。一方、エシカル消費では後者の行動は「バイコット(buycott)」と呼ばれている。このボイコットとバイコットの共存がエシカル消費の重要な特徴だ。「ボイコットの裏返しとして、バイコットがある」とも言え、ボイコットとバイコットは表裏一体の関係になっている。
バイコットをともなうエシカル消費は、単なる不買運動とは異なり、倫理的に優れた商品を積極的に買い支えることを奨励している。そのため、ECRAが拠点を置くイギリスなどでは「エシカルな商品」の市場が成長を続けており、2020年にはイギリス国内の飲食料市場におけるエシカル消費の市場規模は2兆円に達している。この市場規模は年々拡大しており、イギリス国内の飲食料市場だけを見ても、2010年から2020年の10年間で2倍以上の規模に成長している。
エシカル消費はどのように生まれたのか?
では、このエシカル消費という概念は、一体どのようにして誕生したのだろうか。