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線状降水帯とは何か?なぜ増加?各地で甚大な被害、ただし予測精度は25%ほど

公開日 2023年06月20日 14:14,

更新日 2023年09月12日 12:51,

無料記事 / 災害・気象 / 科学

この記事のまとめ
💡 今年も線状降水帯により、大きな被害が発生

⏩ 線状降水帯は積乱雲が「列をなす」現象
⏩ 温暖化によって増加する見込みだが、発生メカニズムは不明な点も多い
⏩ 現在の予測精度は25%ほど

今月8日、気象庁はスーパーコンピューター「富岳」を活用した線状降水帯の発生予測実験を開始した。背景にあるのは、甚大な被害をもたらす線状降水帯に対する警戒感の強まりだ。今月2日にも、東海地方を中心とする6県で線状降水帯による大雨が発生している。愛知県と栃木県で計2人が死亡し、和歌山県などでは数人の行方が分かっていない。

線状降水帯は大雨を降らせる積乱雲が列をなす現象で、その長さは時に300kmにも達する。日本における集中豪雨のうち、約6割は線状降水帯が原因とされ、特に南日本ではその割合が9割にもなる。

これから7月にかけては、1年で最も集中豪雨への警戒が必要な時期だ。気候変動などの影響で、7月に集中豪雨が発生する頻度は過去45年間で3.8倍に増加しており、その多くが線状降水帯によるものとされる。

だが、こうした線状降水帯の発生予測は極めて難しく、気象庁による予測精度は25%ほどにとどまるとされる。

では、そもそも線状降水帯とは一体何なのか。そして、なぜ今後その発生頻度は高くなると考えられるのだろうか。

線状降水帯とは何か

気象庁によれば、線状降水帯とは次々と発生した積乱雲が列をなして、数時間にわたり同じ場所を通過することで生まれる強い降水域を意味する

この長さは50kmから300km程度、幅は20kmから50km程度におよび、広い範囲で大雨をもたらす。

2020年7月の九州豪雨での線状降水帯
2020年7月の九州豪雨での線状降水帯(気象庁HPより, CC BY 4.0

線状降水帯とゲリラ豪雨、何が違うのか

線状降水帯による雨は、天気予報用語でいえば「大雨」の1つに含まれる。なお、大雨を表す用語としては「ゲリラ豪雨」も一般的に知られているが、気象庁によるとこれは正式な天気予報用語ではなく、その代わりに「集中豪雨」や「局地的大雨」などの用語が使われる。

ただ線状降水帯による大雨は、その他の大雨とは異なり、降水域が広い範囲に及ぶという特徴がある。そのため、気象庁も線状降水帯が発生した場合には顕著な大雨に関する気象情報という特別な情報を発表し、警戒を呼びかける。

もっとも、線状降水帯の定義は専門家の間でも議論があるため、この特別情報のタイトルには盛り込まれていない。しかし、国民に注意を呼びかける際には、危険度合いが分かりやすいキーワードとして「線状降水帯」が使われる。

集中豪雨の6割は線状降水帯

日本で発生する大雨の多くは、線状降水帯が原因だ。1995年から2009年にかけて発生した261件の集中豪雨(台風を除く)を調査した研究によると、線状降水帯が原因と考えられるものは168件となり、全体の64%を占めることが分かった。

この割合は南に行くほど高くなる傾向があり、南日本では集中豪雨のうち90%が線状降水帯によるものだった。

だが、北日本でも線状降水帯は発生する。2014年9月には北海道石狩地方などで線状降水帯が発生し、北海道では史上初の大雨特別警報が発令された

最近になってなぜ注目?

線状降水帯の存在自体は、数十年前から知られていた。後述するような線状降水帯の分類が提唱されたのは、1980年代のアメリカでのことだった。

しかし、報道での用語の使用頻度などはここ10年で急速に増えている。

たとえば、読売新聞紙面での「線状降水帯」の使用頻度を調べると、ニュース記事で初めて扱われたのは2014年のことだ。この年の同紙では「線状降水帯」のワードが6度も登場し、それ以降は各地で集中豪雨被害が起きるたびに、報道でこの用語が用いられるようになっている。

こうした報道のターニングポイントとなったのは、2014年8月に広島市などで発生した豪雨被害だった。この豪雨では広島市内で土石流が同時多発的に発生し、77人が犠牲となった。

この豪雨は、線状降水帯のなかでもバックビルディング型と呼ばれる降水域の発生が原因とされる。そのため、これ以降、線状降水帯やバックビルディング型への注目度が高まることになった(*1)

(*1)線状降水帯には、バックビルディング型のほか、破線型、破面型、埋め込み型がある。

線状降水帯はどのように発生するのか

2014年の広島での豪雨をはじめ、日本で発生する線状降水帯はバックビルディング型と呼ばれるものが多い

では、このバックビルディング型とは一体どのようにして発生するのだろうか。

風上で次々と積乱雲が発達

バックビルディング型の特徴は、風上で次々と積乱雲が発達する構造にある。

まず欠かせないのは、大量の暖かく湿った空気だ。この空気が山とぶつかることなどによって、上空へ持ち上げられると、上空に雨を降らせる積乱雲が生まれる。

そして、この際に上空で強い風が吹いていると、積乱雲は風下方向へ移動する。そうすると、この積乱雲の背後で新たな積乱雲が発達する。これを繰り返すことで風上から風下に向かって積乱雲が列をなし、背後(バック)に積乱雲が次々と立ち現れる(ビルディング)ため、この現象はバックビルディングと呼ばれている。

バックビルディング型線状降水帯の模式図
バックビルディング型線状降水帯の模式図(気象庁HPより, CC BY 4.0

衰えない強い雨

このバックビルディング型の特徴は、新たな積乱雲が次々とやってくるため、雨の力が衰えない点にある。

通常1つの積乱雲から降る激しい雨の持続時間は数十分ほどだ。しかし、バックビルディング型の場合、1つの積乱雲の力が衰えても、その背後に新たに生まれた雲が控えているため、激しい雨が数時間にわたり続くことがある。

気候変動で、線状降水帯は増える?

線状降水帯を主な原因とする集中豪雨の発生頻度は、過去45年で2倍以上に増加しているこの背景は必ずしも明確ではないが、背景の1つと考えられるのが気候変動による温暖化だ。

温暖化による大雨の増加

一般的に温暖化が進むと大雨の発生頻度は上がると考えられている。

その理由の1つが、気温上昇によって空気に含まれる水蒸気量が増加するという性質だ。空気は温度が上がるごとに、より多くの水蒸気を含むことができる。具体的には気温が1℃上昇すると、空気は7%多く水蒸気を含むことができる

その結果、気温が上昇すると雨を降らせる雲は大きく発達し、一度に降る雨はこれまでよりも激しくなる。

また、気温が上昇すると海水の蒸発も盛んになるため、空気中に供給される水蒸気量が増える。このことも温暖化によって大雨が増えると考えられている理由の1つだ

難しい予測

今後より深刻になる可能性もある線状降水帯だが、気象庁による発生予測の精度は25%ほどにとどまっている。一方、予想に反して線状降水帯が発生してしまう「見逃し」の発生確率は60%を超える。つまり、現在のところ、多くの線状降水帯は気象庁の予測に反して発生しているのだ。

線状降水帯の発生には、水蒸気量や風の強さなど、様々な条件が関係している。そのため、具体的にどのような条件で線状降水帯が発生するのかは不明な点がまだ多い

そこで気象庁は6月8日から、理科学研究所のスーパーコンピューター「富岳」によって、リアルタイムで線状降水帯の発生を予測する実験を開始した。実験を通して予測精度を向上させ、2026年3月までに実際の予報での活用を目指すとしている。

30分前予測では精度84%に

線状降水帯の事前予測は難しいものの、発生30分前という直前であれば、その予測精度は格段に上がる。気象庁が過去4年ほどのデータを調査したところ、30分後の発生予測精度は84%にも上ることが分かったのだ。

そこで、気象庁は先月25日から、線状降水帯発生に関する情報の運用を変更した。従来は実際に線状降水帯を観測してから発出していた「顕著な大雨に関する情報」を、発生が予測される30分前の段階で発出するようになったのだ。これによって、早期の避難が可能になることが期待される。

線状降水帯への関心が高まると同時に、その実態を解明する研究が進むことが期待される。

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✍🏻 著者
シニアリサーチャー
北海道大学大学院農学院博士後期課程。専門は農業政策の決定過程。一橋大学法学部卒。
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