⏩ 核融合発電の特徴は「クリーン・安全・無尽蔵」
⏩ 原発と比べても同量の燃料から4倍以上のエネルギー
⏩ 実用化に向けて各国が合同でフランスに実験炉を建設中
⏩ スタートアップによる開発では2028年の実用化も視野
「地上に太陽をつくる技術」こと、核融合発電への注目度が高まっている。
きっかけの1つは、米・Microsoftの動きだ。5月10日、同社は核融合発電スタートアップのHelion Energyと電力購入契約の締結を発表。後述のように、核融合発電はいまだ実用化されていない。それにもかかわらず、こうした契約が結ばれることは異例と言える。
スタートアップだけではない。フランスで進む「ITER計画」では、日本を含めた世界各国の技術者が結集して、核融合発電の実現を目指している。
なぜ核融合発電への期待はそこまで高いのか。それは、温室効果ガスを出さず、かつ安全な方法で無尽蔵にエネルギーを生み出せる可能性を秘めているからだ。
核融合の燃料は水素だ。水素は海水などから入手できるため、今後数百万年にわたり枯渇の心配はないとも言われる。
さらに、発電の原理上「暴走」があり得ないことも魅力だ。2011年の福島第一原発事故では、全電源喪失により原子炉が制御不能となり、大量の放射性物質が外部に漏れ出た。
核融合発電は違う。仮に核融合炉で電源を喪失しても、過去の原発事故のような事態が発生することは原理的にあり得ない。
しかし、こうした核融合発電の「安全性」は、核融合という現象がそう簡単に起こらないことの裏返しでもある。核融合を起こすためには、1億℃の超高温・高圧環境を維持する必要がある。このことは容易ではなく、世界の研究者が70年以上の時間をかけて研究に取り組んでもなお、発電に使える規模の核融合は実現していない。
それでもなお「クリーン・安全・無尽蔵」この三拍子を併せもつエネルギー源を得るべく、世界中で核融合発電の研究は続いている。では、そもそも核融合とは一体何なのか。「夢のエネルギー」とも呼ばれる核融合が実用化される日は来るのか。
核融合とは何か
核融合という言葉の意味自体はシンプルだ。核融合とは「軽い原子核同士がくっつき、別の重い原子核に変わること」を意味する。
最も軽い原子として知られる水素には、一般的な水素のほかに、重水素と三重水素という2つの種類がある(*1)。この2つを融合させると、より質量の大きいヘリウムと中性子が生まれるが、これが核融合だ。
(*1)通常の水素は原子核が陽子1つで構成されている一方、重水素は陽子1つと中性子1つ、三重水素は陽子1つと中性子2つで原子核が構成されている。なお、重水素は英語でデューテリウム、三重水素はトリチウムと呼ばれるため、頭文字をとってそれぞれD、Tと略されることもある。
1gから石油8トン分のエネルギー
一見するとシンプルだが、この核融合が起きると非常に大きなエネルギーが同時に生まれる。
具体的には、1gの燃料(重水素と三重水素)で核融合を起こすと、8トンの石油を燃やしたときと同じだけのエネルギーを得られる。これは、2人の日本人が1年間で消費するエネルギー量に匹敵する。
また、原子力発電と比べても、そのエネルギーは大きい。原子力発電の場合、燃料のウラン1gから得られるエネルギーは、石油1.8トン分とされる。
では、一体なぜ原子核が融合すると莫大なエネルギーが生まれるのか。
その理由は、核融合の前後での質量(重さ)の違いにある。重水素と三重水素と、ヘリウムと中性子では、後者の質量の方が軽くなるのだ。
言い換えると、核融合が起きると質量は減少する。そして、その失われた質量がエネルギーに生まれ変わるのである。
ところで、なぜ質量がエネルギーに変換されるのか。その根拠となるのが、アルベルト・アインシュタインによって発見された「E=mc2」の公式だ。Eはエネルギー、mは質量、cは光の速度を表しており、ここでは「エネルギーは質量に等価であること」が示されている。
太陽から水爆まで
この核融合による莫大なエネルギーこそが、燦々と輝く太陽活動の源となっている。太陽では、水素同士の核融合が絶えず起きており、核融合発電が「地上に太陽をつくる技術」と呼ばれる所以はここにある。
一方、核融合のエネルギーは兵器になることもある。それが水爆(水素爆弾)だ。
水爆は爆弾内で水素同士の核融合を起こし、その莫大なエネルギーを破壊力として用いる。その力は原爆より遥かに大きく、1952年に米国が実験した水爆の威力は広島型原爆の600倍以上に達したとされる。
原子力発電と何が違うのか
原爆や原子力発電よりも大きなエネルギーを生むとされる核融合だが、そもそも一体何が違うのか。
実は、核融合発電も原子核を利用する以上、広い意味では「原子力発電」に含まれる。原子核の反応には大きく2種類あり、1つは核融合、もう1つが核分裂だ。そして、現在のところ原子力発電は、一般的に核分裂を利用する発電を意味する。
核融合と核分裂は、いわば真逆の現象だ。簡単に言えば、原子核が「くっつく」のか、「分かれる」かの違いである。現在の原子力発電の場合、ウランの原子核を分裂させることでエネルギーを得ている。
核融合発電は「原子力発電」の1つであっても、核分裂とは全く異なる原理を利用する。そのため、たとえ核分裂の利用に危険があったとしても、核融合発電も同様とは限らないのだ。
核融合発電はなぜ難しいのか
核融合から生まれるエネルギーを利用するのが、核融合発電だ。具体的には、核融合のエネルギーによって水を数百度まで加熱し、そこから生まれる蒸気でタービンを回すと発電ができる。
しかし、核融合発電の実現に向けたハードルは非常に高い。なぜなら、まず核融合を人工的に起こすこと自体が簡単ではないからだ。
正の電荷同士を衝突
核融合を起こすことが難しい理由は、磁石を思い浮かべると理解しやすい。