⏩ DBSは「子どもに接する職場で起きる性暴力を防ぐために、従業員の性犯罪歴を確認する」ための制度
⏩ 制度の内容に関して、見直しが要求
⏩ 日本版DBSの導入をめぐって何が争点になっているのか?
2023年9月、日本版 DBS に関して、秋の臨時国会において関係法案の提出を見送ることが決まった。DBS とは、子どもに接する職場で起きる性暴力を事前に防ぐために、従業員の性犯罪歴を確認するための制度だ。今年6月には、小倉将信こども政策担当相により秋の臨時国会で関連法案を提出する考えが示されていた。しかし、制度の対象範囲等に関して見直しが求められたため、提出は来年以降に延期されることとなった。
子どもに対する性犯罪を防ぐ動きは、この数年で加速している。例えば、2020年には教育職員免許法の規制を強化する法改正案をめぐる動きがあった。この動きをもとに、2022年4月には「教員による児童生徒性暴力防止法」が施行された。
この法律により、過去に性暴力で教員免許を失効した元教員は、学校に復帰するために再授与審査を受けることが求められるようになった。審査では、医師による診断書や更生した証明書等の書類が必要であり、さらに査会は全会一致が原則なため、教員免許を失効した元教員が復帰することは極めて困難になる。
しかし、子どもに接する職業は学校教員だけではない。例えば、2020年頃にはベビーシッターのマッチングプラットフォームを通じた性被害が起きている。このような事案が相次いだことを受け、学校以外の職場も対象となる DBS 制度の導入を求める声が高まっていた。2021年に数回にわたって開かれた「こども政策の推進に係る有識者会議」でも、日本版 DBS の導入を検討する考えが示されている。
では、日本版 DBS とはどのようなものなのだろうか。また、DBSの導入をめぐる議論には、どのような争点があるのだろうか。
日本版 DBS とは何か?
DBS はイギリスで2012年に生まれたもので、正式名称は Disclosure and Barring Service(前歴開示・前歴者就業制限機構)という。現在はイギリスの他に、ドイツ・スウェーデン・オーストラリア・ニュージーランド等で採用されている。
国によって若干の差異があるが、特に子どもと触れ合う職業において従業者の性犯罪歴を開示する機構を指す。これにより、犯罪歴があると認められた際、一定の条件にもとづいて就業を制限することなどが可能となる。このような DBS を輸入したものが、日本版 DBS だ。(*1)(*2)
(*1)この記事で紹介する日本版 DBS の内容は、基本的に2023年の6月から9月にわたって行われた「こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議」の議事録や報告書案等に基づいている。有識者会議では「検討に更なる時間を要する」と判断された項目もあり、また現状の DBS 制度に対して見直しを求める声もあがっているため、この記事で紹介する内容は今後変更される可能性がある。
(*2)「DBS」は、定義上は情報開示を行う「機構(Service)」を指すが、一般的にこの言葉が使われるときには、情報開示の方法や就業・雇用の制限等に関する「制度」まで含まれることが多い。便宜上、ここからは両者を断りなく用いていく。
日本版 DBS の内容
日本版 DBS では、子どもと接する一部の職業において、現職員・新規職員の性犯罪歴を確認することが義務化されることとなっている。現状では、次のような内容が盛り込まれる予定だ。