⏩ 日本の大学は、世界でもトップレベルで学費が高い
⏩ 公的支出が少ないが、それは「教育劣位社会」の反映
⏩ 大学教育の受益者が誰かをめぐる論争
2024年6月10日、東京大学は約20年間据え置いてきた授業料について「改定を検討」していると発表した(太字は引用者による、以下同様)。東京大学新聞は5月23日、関係者の話として、学費の値上げに関する学内の議論について以下のように報じている。
ある関係者は、教授会で値上げの理由として物価・人件費の高騰が挙げられ、増収分の約29億円は主に学内のDX(デジタルトランスフォーメーション)拡充のために使用されるとの説明があったと答えた。教員からは値上げの時期や方法に対し拙速だとの批判が上がったという。
6月7日には、82の国立大学が参加する国立大学協会が声明の中で、国家予算の厳しさ、社会保険などの経費上昇、近年の物価高騰、円安などの影響により「もう限界です」とまで述べて、国や地域、産業界に理解と協力を求めた。
一方で、学費の値上げに対し教職員や学生らは反対の声をあげている。東京大学教養学部自治会は6月10日、「今回の授業料値上げ検討の取止めを求める」ことなどを盛り込んだ「授業料値上げに関する駒場決議」を採択した。14日には、東京大学の学生らが、予算拡充などを訴える要望書を文部科学省に提出している。
大学の学費をめぐっては、慶應義塾大学の伊藤公平塾長が、3月に文科省の特別部会において、国公立大学の学費を年間150万円にすべきだという提案をしたことも議論を呼んだ。
足元でにわかに注目を集めている大学の学費論争だが、こうした議論は昨日今日始まったものではない。1960年代に盛んだった学生運動の中には、学費の値上げに反対するものもあり、早稲田大学、慶應大学、明治大学、中央大学などで反対闘争がおこなわれた。
また、国立大学協会は1993年にも声明文を出したことがある。同声明は、「国立大学の授業料は過去十数年間著しい値上がりをしている」と指摘したうえで、国に対し、「国立大学授業料の値上げを意図することは、わが国の長期将来展望を欠いた発想と言わざるをえない」としている。
後述するように、日本の大学、特に国立大学については公的支出による支援が少ないとされているが、その背景にある要素については、包括的に整理されていない。
そもそも日本の大学の学費は高いのだろうか。そして、高いとすれば、背景には何があるのだろうか。