以前の記事で、イスラム教徒として知られる少数民族・ウイグル人への中国政府による監視と管理について、歴史的起源を紹介した。昨年11月と今年の2月、ウイグル人への監視・管理について具体的な実態を記した文書が立て続けに流出した。
この文章により、中国政府が新疆ウイグル自治区内の収容施設で、数十万人のウイグル人に対して組織的な洗脳をおこなっていることが明らかとなった。ABC Four CornersやNew York Timesによるインタビュー映像は、ウイグル人たちの悲痛な現実を伝えている。
だが中国政府は一貫して、過激思想に対抗するための教育であると説明してきた。こうした説明と流出した文書の矛盾、そして収容施設の違法性について国際的な非難が集まっている。
そして今月1日、オーストラリアのシンクタンク「オーストラリア戦略政策研究所」(ASPI)がレポートを公開したことで、事態は新たな展開を見せた。同レポートによれば、ウイグル人たちは新疆外部の国内工場に強制移送され、労働を強いられている。加えて、それらの工場は世界的企業のサプライチェーンに含まれている証拠も示された。
8万人のウイグル人、強制移住・労働へ
ASPIの推定によると、2017年から2019年にかけて、中国全土の工場に強制的に移送させられたウイグル人の数は約8万人であった。これは控えめに見積もられた数字であり、実際の数はもっと多いとも指摘されている。中には、新疆にある「再教育キャンプ」から直接移送された労働者もいた。
ASPIは、ウイグル人移送計画(政府主導で「援疆」と呼ばれる)を通じた強制労働によって、直接あるいは間接的に利益を得ているとして中国内外合わせて83社をリスト化した。Apple、BMW、Gap、Huawei、Nike、Volkswagen、Amazonなどテクノロジー・アパレル・自動車産業に至るまで世界的なブランドが含まれている。
日本企業も例外ではない。日立製作所、ジャパンディスプレイ、三菱、ミツミ電機、任天堂、パナソニック、シャープ、ソニー、TDK、東芝、ユニクロの11社があげられている。
Nikeはコメントを発表し、「新疆ウイグル自治区出身者の雇用に関する潜在的なリスクを特定・評価するために、我々は中国のサプライヤーと共同して調査を続けている」としている。同社は、「国際的な労働基準の順守にコミットし、その状況の複雑さを踏まえコンプライアンス基準をどのようにして最適に監視するか検討を続けている」とも言及した。AppleやVolkswagenなどもコメントを発表しているが、現在のところ、日本企業は一切動きを見せていない。
中国政府は「自主的な移動」と反論
ASPIによると、中国政府は労働者の自主的な移動であると主張しており、強制労働の商業的利用を否定している。海外および中国企業は「おそらく知らぬ間に」人権侵害に関与していると報告している。
この状況は、中国から製品を購入している企業や消費者にとって、新たなリスクとなっている。新疆を含むあらゆる地域で製品が生産され、強制労働者たちの手を経て出荷されていた可能性を鑑みると、企業にとって風評・法的リスクに直面するおそれがある。また、こうした企業の個人投資家やウェルス・マネジメント・ファンドなどにとっても潜在的リスクとなっている。
最も際立った報告は、次のようなものであった。労働者の移送に貢献した地方政府や私的なブローカーは、基準に応じて新疆政府から1人当たり10元、多い場合100元を超える報酬が与えられていることである。これは、労働者移送が「再教育」プロセスにとって不可欠であるということを示唆している。同時に、中国の中央政府のみならず、地方政府や民間までもが一体となって弾圧に加担しているということを明らかにした。
レポートの共著者の一人、ネイサン・ルザー氏はBBCに対して、「我々のレポートが明らかにしたのは、ウイグル人や他の少数民族に対する収奪が、経済的搾取という特徴をも有しているということだ」と語った。また、中国のウイグル政策の世界的な専門家で、共産主義犠牲者記念財団のシニアフェローであるエイドリアン・ゼンズ博士は、「中国にある西側諸国のサプライチェーンに衝撃波を送るだろう。無実のふりをする時間は終わった」とツイートした。