2020年1月28日、アメリカ司法省は、ハーバード大学の元教授(化学・化学生物学科長)チャーリズ・リーバー氏を起訴した。ノーベル賞候補とも言われた世界的研究者が起訴された理由は、詐欺容疑。同氏は中国・武漢技術大学から研究資金として150万米ドル以上を受け取っていたが、その事実をハーバード大に報告していなかった。
ハーバード大はThe Vergeに送ったメールの中で、「リーバー教授に対するアメリカ政府よる告発はきわめて深刻なものである。ハーバード大はアメリカ国立衛生研究所(NIH)を含む連邦機関に協力し、当該の不正行為について自ら調査をおこなっている」と説明した。
実は、同様の容疑で起訴・告発されたのはリーバー氏がはじめてではない。たとえば、2018年2月にアメリカ海洋大気局の研究者シュンツァイ・ウォン氏、2019年5月にエモリー大学の元教授(神経科学)シャオヤン・リー氏が告発された。直近では今年3月に、ウェストバージニア大学の元教授(物理学)ジェームズ・パトリック・ルイス氏が同様の処分を受けている。
彼らの共通点は、通称「千人計画」と呼ばれる中国の高度人材募集プログラムに参加していたことである。
「千人計画」とは何であり、なぜアメリカは問題視しているのだろうか?
アメリカの研究者を好待遇で集める「千人計画」
「千人計画」(Thousand Talents Plan)とは、正式名称を「グローバルエキスパート募集計画」と言い、中国が2008年末頃から着手している6種類の海外高度人材採用プログラムの総称である。
彼らのサイト(現在は閉鎖)によれば、グローバルな英知を結集することによる中国の偉業達成が目的である。主要なテクノロジー産業でブレイクスルーを生み出したり、同国のハイテク産業を活性化できる科学者らの人材が求められている。
「千人計画」は、その破格の待遇から注目されていた。たとえば、「イノベーティブタレント募集プログラム(長期)」の要綱によると、各参加者は国家予算から100万人民元(約1600万円)を支給され、外国人永住権に申請可能な上で、配偶者の働き口や子どもの学校も保証される。
アメリカ司法省の発表によると、冒頭のリーバー氏は、武漢技術大学から月5万米ドルと生活費100万人民元を受け取っていた。
警戒心を募らせるアメリカ
近年アメリカは、中国との技術競争が激化する中、「千人計画」をはじめとする人材募集プログラムに警戒感を示してきた。