2019年4月、アフガニスタンにあるバグラム空軍基地近くで自動車が爆発し、3人の米兵が亡くなった。この基地は米軍の主要拠点として、たびたびタリバンによる攻撃の標的にされてきたが、こうした有志連合の兵士殺害の裏で、ロシアの29155部隊という組織がタリバン系の過激派武装勢力に報奨金を支払っていることが報じられた。
この29155部隊とはどのような組織であり、これまでどんな秘密工作に関与してきたのだろうか。
帝政ロシア・旧ソ連の流れを汲む軍事情報部隊
ロシアの治安・情報機関の起源は古く、1565年にイヴァン4世が反皇帝勢力の弾圧と中央集権化のために導入したオプリーチニナ制度にその源流を持っている。この制度は、国土を直轄領とその他の領土に分け、直轄領に皇帝自ら任命した領主を送り込んで支配するというもので、これに反発する貴族たちは親衛隊によって処刑や拷問、強制移住させられることとなった。
こうした帝政護持のための組織はその後もさまざまな形で組織されてきたが、ロシアにおける本格的な軍事情報機関のルーツは1810年、ナポレオンのロシア遠征時に軍事相も務めたミハイル・バルクライ・ド・トーリがアレクサンドル1世に提案し、ロシア帝国軍事省下に設立した秘密部隊とされている。
この組織も名称変更を繰り返したのち、帝政崩壊までロシア帝国軍参謀本部総局の補給総監課として軍事情報機関としての機能を担っていた。1917年、ロシア革命を経てソヴィエト政権が発足した後も、こうした治安・情報機関は体制維持のために存続することとなった。
29155部隊の上部組織であるロシア連邦軍参謀本部情報総局(以下、GRU)は、まさに上述のロシア帝政以来のルーツを持ち、1926年から活動を続ける軍事情報機関である。なお、ロシアの諜報機関として有名なKGB(現:SVRなど)は、東西冷戦時代に設立された別組織である。
イギリスの独立系調査メディアbellingcatが公開した調査レポートによれば、29155部隊とはGRUに属するロシアの軍事情報部隊であり、モスクワ東部にある第161特殊目的専門家訓練センターの本部に拠点が置かれている。
部隊の存在が公に知られるようになったのは2019年に入ってからだが、ロシアの中央軍事司令部の組織再編成や後述する秘密工作の内容から、2009年以降にはすでに活動していたと考えられてる。