タバコの健康リスクを訴え続けてきたWHOは、加熱式を含めたあらゆる種類のタバコについて使用の中止を推奨している。特に、喫煙行為が新型コロナウィルスへの罹患率を高めるという報道も相まって、2020年以降の見通しはタバコ業界にとって暗いものとなっていた。
しかし、業界は必ずしも不況に陥ってはいない。「マルボロ」や「ラーク」といった銘柄を販売するフィリップモリス・インターナショナルやアルトリアは、第2四半期の収益が予想を上回ったことで配当を引き上げるなど、タバコ業界は意外なほどに好調な動きを見せている。
だが、新型コロナウィルスとの関連で規制が強められた国もある。例えば、南アフリカではロックダウン中、タバコの販売と購入が禁止された。日本でも、2020年4月1日から改正された健康増進法が施行され、受動喫煙対策とコロナ対策を合わせて、全国的に喫煙所の閉鎖・撤去が進められるなど、タバコは徐々にそのニーズを落としてきた。実際、「ラッキーストライク」や「ケント」、「クール」などを販売するブリティッシュ・アメリカン・タバコ社は、先進国市場での取引は好調だとしつつも、収益成長予測を引き下げている。こうした世界的な規制強化と市場の縮小に対し、タバコ業界は今後の対応を迫られている。
では、健康リスクが指摘され続け、外出や旅行の減少による免税を含めた減収減益が想像されるパンデミック下で、なぜタバコ業界は売上が上昇しているのだろうか?そして、中長期的に見て規制強化や市場縮小が進む中で、タバコ業界は今後どのように対応していくのだろうか?
パンデミック下でタバコが売れる理由
逆説的だが、タバコの売り上げは新型コロナウィルスのパンデミックによってもたらされたとも言える。アメリカでは旅行や娯楽への支出が減り、タバコの消費量が増加したことに加えて、電子タバコに対する連邦政府の規制を受けて、伝統的な紙巻きタバコへと回帰している。実際、アルトリアは投資していた電子タバコJuulが10代の喫煙者を増加させ、死者も出たことから訴訟が増加したことで、大きな損失を出しており、メーカーとしても電子タバコへの注力がしづらい状況にある。また、喫煙率の減少幅は2020年7月時点では2%ペースに鈍化しており、購買・消費行動の理由としては、ストレスの増加による喫煙や外出を控えるためのカートン買いが考えられる。
しかし、こうした喫煙率減少の鈍化は短期的な傾向と見られており、パンデミック以降も持続する動向とは考えられていない。そもそも、鈍化したとはいえ喫煙率は低下しており、従来のタバコ製品の市場は縮小傾向にある。
健康リスクへの意識の高まりに伴う規制強化を受けて、1960年代には成人男性の半数近かったアメリカでの喫煙率は、1980年代初頭から毎年3〜4%ずつ減少し、2019年の7%という大幅な減少を受けて、2020年は例年よりさらに喫煙率は下がると予測されていた。また、連邦法により、従来の18歳から21歳に喫煙可能な法定年齢が引き上げられたことで、若年層へのリーチをかつてより難しくなった。
こうしたタバコ業界への逆風はアメリカに限った話ではない。EUではタバコに対する最低消費税と物品税、付加価値税(VAT)が設定され、国によって異なるが、小売価格のうち7〜80%が税金となっている。加えて、2020年5月20日からイギリスを含むEU全体で、主に10代の若者の喫煙率を下げる目的でメンソール風味のタバコの販売が禁止された。
では、こうした市場縮小や規制強化に対し、タバコ業界は今後どのような対応をしていくのだろうか。