新型コロナウィルスのパンデミックは人々の生活を一変させたが、不動産も大きな影響を被っている。不動産に関わるコロナ禍の影響は幅広い領域に及んでいるが、具体的にどのようなことが起こっているのだろうか。そして、こうした不動産に関わる影響が人々の生活をどう変化させたのだろうか。
この記事では特にオフィス(労働)、商業物件(消費)、そして住宅(生活)について見ていく。
オフィスの変容とリモートワーク
パンデミック以降、オフィスのあり方は変わりつつある。企業はオフィススペースの廃止や自社ビルの売却、より小規模なマイクロオフィスへの拠点分割を進めており、企業にとってオフィスは必須ではなくなりつつある。また、シリコンバレーをはじめとするサンフランシスコでは、在宅勤務が可能な技術労働者が高い生活費や通勤を嫌って移住する傾向があり、イノベーション・ハブとして知られたベイエリアそのものの再編が起こっている。
オフィス利用が縮小する中で大きな影響を被ったのがシェアオフィスやコワーキングスペースだ。この業界は、市場シェアの獲得に向けて各社が過剰なまでの事業拡大をおこなってきたが、コロナ禍によってそのビジネスモデルが覆されることとなった。WeWorkはメンバー数こそ減少したものの、残る会員企業には従業員数500名以上の会社が多く、また売上高も昨年より上昇している。だが、ライバル企業であるIWGの株価は大きく下落しており、シェアオフィスやオフィス業界の将来が明るいとは言い難い。
実際、コミュニティ機能を狙ったイベントなどの付加サービスが事業者側の負担になっていたり、大口顧客が優先されることで、小規模事業者の利用客が家賃交渉などで不利益を被ったりする場面も出てきている。
こうしたオフィスの縮小傾向がある一方、パンデミック以降、リモートワークや在宅勤務の広がりは世界的なものとなっている。スタンフォード大学の調査によると、アメリカでは労働者の42%がフルタイムで在宅勤務をしており、サービス産業やオフィスで働く人は26%にとどまっている。GDPに鑑みて、在宅勤務労働者がアメリカの経済活動の3分の2を占めている計算である。また、ギャラップの調査によれば、英米仏の労働者たちは在宅勤務は従来の勤務形態とほとんど変わらないと考えており、コロナ禍が去った後も在宅勤務の継続を望んでいる。
とはいえ、リモートワークや在宅勤務も良いことばかりではない。リモートワークが可能な場合でも、安く快適な生活と引き換えに給与が減額されたり、オフィス労働との併用が出勤組とリモート組のコミュニケーション格差を生み、結果としてリモートワーカーの昇進を妨げたりする可能性が指摘されている。
また、リモートワークや在宅勤務の拡大は、既存の不平等の可視化にもつながっている。リモートワークを選べない労働者ほど、賃金低下や失業のリスクを抱えており、加えて新型コロナウィルスに対する感染リスクをめぐる健康格差にもつながっている。加えて、先述のスタンフォード大学の研究者たちは、在宅勤務が可能なのは主に教育を受けた高収入層であり、そうでない労働者との医療や住居、仕事のアクセスなどをめぐるさまざまな不平等を助長する可能性があることや、通勤機会が減ることで電車やバスなどの交通機関や都心部の衰退などを指摘している。
物流施設の隆盛
上述の通り、オフィスの縮小やリモートワーク、在宅勤務の広がりは通勤を減らすことにつながる。この結果、交通機関はもちろんのこと、都市部の小売業・飲食業・サービス業などが打撃を受けている。
小売業や飲食業、サービス業など、実際の現場でビジネスをおこなう必要のある業界は、コロナ禍でのロックダウンやソーシャル・ディスタンシングの推奨による売上へのダメージから、依然として立ち直ることができていない。
ニューヨークのような世界的な観光地では、観光客の減少による売上低下を受けて、小売・外食チェーンが撤退する動きが見られる。小売業や飲食業、サービス業などは実際に接触を伴うことから新型コロナ感染リスクを恐れて客足が落ちている。観光地ではテナント物件の賃貸料も高く、また観光客に依存したビジネスモデルから地元客だけでは十分な売上が見込めないため、閉店や休業を余儀なくされている。
また、コロナ禍の影響で観光目的のニーズが減少し、ホテル業界をはじめ宿泊産業は苦境に立たされている。こうした中、Airbnbが大人数の若者が飲酒や薬物を使用する場とされて問題となり、同社は民泊物件のイベントやパーティーへの利用を禁止する事態となった。クラブなど、ナイトライフを過ごす場所がコロナ禍によって再開が困難となる中、人々が発散の場を求めた結果ともとれるが、民泊もまた、ニーズの落ち込みで多くのホストを失う可能性を抱えている。
だが、すべての商業関連の不動産が、その価値を下げているわけではない。