ヴィーガンは世界的なトレンドとして、小さいながらも着実に成長を続ける市場である。サステイナビリティ、健康意識、宗教・倫理、食物アレルギーなど、さまざまな動機からヴィーガンとしての食生活を選択する人々が増えつつある。
健康面については、体重減少やいくつかのガンおよび心臓病のリスク低下に、ヴィーガンとしての食生活が有効であることは複数の研究によって示されている。また、食物アレルギーで見ても、例えば乳製品の消化能力の障害である乳糖不耐症は、東アジアを中心に世界人口の65%が抱える問題であることに鑑みれば、完全な菜食主義とは言わないまでも、それに類する食生活の選択は健康を守る上で重要となってくる。
特に食をめぐるサステイナビリティは、SDGsに鑑みても環境問題や産業のあり方にも関わる重要な論点と言えるだろう。では、ヴィーガンという食生活は、消費者としての我々にとってどのような意義を持ちうるのだろうか。
成長市場の担い手としてのヴィーガン
ヴィーガンフード市場全体は、2018年に126.9億ドル規模と評価されており、2019年から2025年にかけて年平均成長率9.6%で成長すると予測されている。
より具体的な内容を見てみよう。グローバルな代替タンパク質市場は、2010年から北米を中心に拡大傾向にあり、2020年から2025年までに年平均成長率7.4%を記録するという予測がなされている。代替タンパク質とは、具体的には植物性タンパク質、真菌類に由来するマイコプロテイン、藻類タンパク質、および昆虫タンパク質を指している。
2020年7月には、オーツ麦で作られた代替ミルクを販売するスウェーデンの食品ブランド「オートリー」が2億ドルの株式を売却し、20億ドルものブランド評価を得ることとなった。株式購入をおこなうコンソーシアムには、オプラ・ウィンフリーやナタリー・ポートマン、Jay-Z率いるロックネイション社、元スターバックスCEOのハワード・シュルツも名を連ね、成長市場の開拓として大きな注目を集めた。
畜産業への批判として
しかし、オートリーの株式売却の決定は、コンソーシアムの中にドナルド・トランプ大統領支持で知られるPEファンド「ブラックストーン」が含まれていたことから、批判を浴びている。
ただし、批判の理由はトランプ支持ではない。大豆や穀物輸送のための高速道路建設に伴うアマゾンでの森林破壊に関わっているとして非難された、ブラジルのインフラ企業にブラックストーンが投資をしており、彼らが株主となることはサステイナビリティを謳うオートリーの企業ミッションと矛盾するからである。オートリーの主な購買層はヴィーガンであるため、こうしたサステイナビリティや環境破壊への倫理性が、自身が消費する製品や製造企業にも要求された形となっている。
CO2排出の元凶
こうしたヴィーガンのサステイナビリティへの意識は、畜産業への批判にもつながっている。畜産や酪農による食肉や乳製品の生産は、人為的なCO2排出量の14.5%を占めており、特に牛肉はカロリーあたりのCO2排出量が植物性タンパク質と比べてはるかに高い。2010年のユネスコの研究機関の報告では、主に畜産業で使う飼料用作物のために、世界の淡水使用量のほぼ3分の1が使われている。加えて、牛などの反芻動物が発するげっぷには、温室効果ガスの1つであるメタンが多く含まれており、工業廃棄物と合わせて人為的なメタン排出の大きな原因となっている。こうした畜産業による環境負荷や屠畜そのものへ反対する倫理的意識が、ヴィーガンという食生活の選択には存在している。
こうしたヴィーガンによる畜産業への批判は、何も彼らの個人的な倫理問題にはとどまらない。例えば、ブラジルに本拠を構える世界最大の食肉企業JBSが、牧草地化のためのアマゾンの森林破壊や肉の汚染隠蔽、サプライチェーンにおける奴隷労働、動物虐待、ブラジルのミシェル・テメル大統領などへの贈賄といった数々の問題が指摘されている。贈賄については、JBSの組織体制以上の一般化には慎重になるべきだろうが、環境破壊などに関しては畜産業全体の課題であり、ヴィーガンの持つ問題意識とも整合的である。