⏩ 19年ぶりに大卒女性の出生子ども数が増加
⏩ 背景にあるのはジェンダー平等の進展?
⏩ 正規雇用率の高さと、生殖医療技術の発展も関連
2022年10月、日本の大卒女性が産む子どもの数が回復傾向にあると報じられた。これは2021年におこなわれた調査を公表したもので、大卒以上の女性の出生子ども数は、2002年以来、19年ぶりの増加となった。
一般に、女性が高学歴になり社会に進出するほど子どもを産まなくなる、と言われる。というのも、高学歴な女性ほどキャリア志向が高く、社会へ進出する傾向にある一方で、出産や育児に対して消極的になりやすいと考えられているためだ。
にもかかわらず、今回の調査で明らかになったのは、大卒女性の出生子ども数が上昇している、という事実だ。
国内で生まれた子どもの数が80万人を割り込むなど、子どもの減少が問題視される中、いったいなぜ、大卒女性の出生子ども数(*1)は増加したのだろうか。
(*1)本記事では、2021年の第16回出生動向基本調査をもとに、「妻が45~49歳の夫婦における最終的な子どもの数の平均」を「(女性一人当たりの)出生子ども数」として扱っている。一般的に、49歳を超えた女性が出産する例は稀であるため、出生子ども数は「一人の女性がその年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子どもの数(合計特殊出生率)」と同値のものとして扱われる。以下、単に出生率といったときはこれを指すものとするが、のちに触れる研究は、厳密には異なる意味合いで出生率を用いているため、そのまま本問題に当てはまるわけではない点に注意が必要だ。
大卒女性の出生子ども数はどのように推移しているのか?
今回増加したという大卒女性(*2)の出生子ども数については、2002年に2人を超えたのを最後に減少傾向を続けていた。前回調査時の2015年には1.66人を記録したが、今回の2021年の調査で1.74人となり19年ぶりの増加を見せた。
一方で、中高卒女性と専修学校・短大・高専卒(以下「専修卒など」と表記)女性の出生子ども数は、基本的に大卒女性のそれよりも高い傾向にある。今回の調査でも変わらず、中高卒の出生子ども数は1.82人、専修卒などの場合は1.81人と、いずれも大卒女性より高い数値を残した。
ただし中高卒と専修卒などの出生子ども数が、減少トレンドを続けていることも確かだ。
1997年以来(*3)、中高卒、専修卒などの女性は、どちらも2人を超える出生子ども数を記録していた。だが、前者は2005年、後者は2002年をピークに減少傾向へ転じると、2015年にはそれぞれ1.94人、1.85人まで落ち込んだ。今回、その値がさらに低下したことで減少トレンドが引き続いている。
このように全体として減少トレンドが引き続く中、大卒女性のみが出生子ども数を回復させたのだ。その背景にある理由は何だろうか。
(*2)出生動向基本調査では、女性の最終学歴を次の3つに分け、それぞれの子ども数を調べている。具体的には「中学校・高校」・「専修学校・短大・高専」・「大学以上」だ。したがって、正確に記述するなら「大卒以上の女性」とすべきだが、本記事では簡略化のため、「大卒女性」で統一する。
(*3)現在と同じ学歴区分で調査し始めた年。それより前の調査(1992年以前)では、「中学校」「高校」「専修学校・短大・高専・大学以上」と異なる区分を採用していた。
なぜ大卒女性の出生子ども数が増加したのか?
先進諸国における出生率は、しばしば3つの要因に依存すると指摘される。具体的には、(1)社会経済状況(*4)、(2)ジェンダー規範、(3)生殖技術だ。これらの要因が、そのまま日本に当てはまるわけではないが、それぞれ示唆的であることは間違いない(*5)。
なお、ここまでは「出生子ども数」に注目してきたが、以下で見る研究の多くは「出生率」に注目している。両者は厳密には異なる指標であるため、取り扱いには注意が必要だ。しかし脚注(*1)で述べたように、それぞれ近しい指標として使用されることもあるため、便宜上ここからは両者を断りなく用いていく。
(*4)ここで参照した研究では「社会経済発展」とされているが、本記事では社会経済要因として扱う。
(*5)これらの要因だけで日本で大卒女性の出生子ども数が増加した、と断定することは難しいだろう。なぜなら、出産・子育て支援政策の効果を測定・評価することは難しいとされるなど、要因の特定には一定の困難さが伴うからだ。
1. 社会経済状況
第1の要素は、社会経済状況だ。この要因と出生率の関係についての説明は、世界共有のものと国内の文脈に特有なものとで、大きく2つに分かれる。
1つ目は、長期変遷モデルにしたがった出生率変化の説明で、これは世界的に見られる傾向だという。
このモデルではまず、経済水準が発展途上にあり、ジェンダー平等が達成されていない段階では出生率が高く、やがて経済発展が進むと出生率は低下していく、と説明される。たとえば現在であれば、前者はソマリアやコートジボワールのようなアフリカの国々で、後者はドイツやカナダのような先進諸国が該当する(*6)。
そして、低成長期にさらなる低い出生率の段階を経験した後、社会的な子育て支援の進展・ジェンダー平等の達成・医療技術の発達により、出生率が回復する段階に至る。