大手報道機関などでも、昨年春の新型コロナウイルスの流行に伴って、医療崩壊という用語が使われている。また昨年末から今年はじめにかけても、感染者の増加に伴って、この用語が再び注目を集めている状況だ。 しかし、その定義は曖昧で定まってはいない。
一体、医療崩壊とは何であり、どのような状況を指すのだろうか。
曖昧な定義
医療崩壊という言葉をめぐる世間の関心は、再び高まっている。Googleトレンドによれば、昨年3月末から4月頭に検索回数が急増し、昨年11月後半から再び検索回数の増加が見れられる。
医療崩壊の検索結果
昨年春といえば、世界的に感染拡大が拡がった時期ではあるが、なかでも医療崩壊の文脈で注目を集めたのは、イタリアだ。Wall Street Journalのマーカス・ウォーカーらは、イタリア・ベルガモにある病院の状況を以下のように記す。
深刻な呼吸困難に陥った新型コロナウイルス感染症「Covid-19」の患者全員に挿管できるだけの十分な人工呼吸器はない。医師によると、集中治療室(ICU)では70歳以上の患者はほぼ受け入れていない。(略)病人の数は病院が全員に最善の治療を提供できる能力を上回っている。
こうした状況は、日本でも盛んに報じられた。たとえば産経新聞の三井美奈は「集中治療室では『患者の選別』が行われている実態が現地報道で明らかになった」と指摘して「死者世界最多のイタリア『医療崩壊』で患者の選別も」と報じている。おなじく毎日新聞や日本テレビでも、「医療崩壊の危機」などの用語が使われている。
この時期に、日本の報道機関が医療崩壊をどのように定義していたかは不明だが、たとえばNHKは以下のように報道する。
病院は急増する重症患者で対応が追いつかず「医療崩壊」とも呼ばれる事態に陥っていた。
「対応が追いつかない」のが重症患者のことを指すのか、コロナ感染者以外の全ての患者を指すのかも不明であり、「追いつかない状態」をどのように定義しているかも明らかではないが、「『医療崩壊』とも呼ばれる事態」という表現を使うことで、慎重に定義を避けている。