新型コロナウイルスのパンデミックによって、世界的に酒類が販売禁止となったり飲食店が時短営業や営業停止となるなど、アルコール業界は大きな影響を受けた。
こうした中で、他のアルコールよりも大きな影響を被ったのがシャンパンだ。2020年4月から8月の間に、業界の売上高は3分の1もの減少を余儀なくされ、約20億ドル(2100億円)もの収益を失い、約1億本ものシャンパンが売れ残った。
その理由は言うまでもなく、パーティーが禁じられ、結婚式や卒業式など「祝福」の機会が減少したからだ。パンデミックによって、アルコールの需要が一律に減少したわけではない。「家飲み」需要が高まり、酒量よりも質が好まれたため、カクテルや高級リキュールのオンライン販売は高まったが、シャンパンのように大人数での消費が好まれる製品は、大きく低迷した。
しかし、ワクチンが先進国で流通して、旅行やアミューズメント、ラグジュアリー業界が息を吹き返しつつある現在、シャンパン業界もまた復活の兆しを見せている。
こうした状況の中、シャンパンを含めたラグジュアリー業界は、近年のトレンドを加速させている。ヒップホップ文化やセレブリティとの接近だ。
LVMH、Jay-Zのシャンパン企業を買収
ラグジュアリー業界のコングロマリット、LVMHのワイン・スピリッツ部門であるMoët Hennessy(モエ・ヘネシー)は、Armand de Brignac(アルマン・ド・ブリニャック)の株式50%を取得した。
「アルマンド」の愛称で知られるこのブランドは、ラッパーのJay-Zによって所有されていることで知られる。
「アルマンド」とJay-Zの関係は、2006年に始まった。Jay-Zの大ヒットアルバム『Kingdom Come』のリードシングル「Show Me What You Got」のMV(下記)に、「アルマンド」の著名なロゴ「スペードのエース」が登場した。
同時にJay-Zは、ブランドへの投資を開始して、2014年には製造するChampagne Cattier(カティエ)の株式を全て取得した。
今回、Moët Hennessyは、Jay-Zから株式50%を買い取ることで、Moet & Chandon (モエ・エ・シャンドン) や、Dom Pérignon (ドン・ペリニヨン)、Hennessy (ヘネシー)などに加えて、このブランドを自社ポートフォリオに組み入れた。
Jay-Zは、今回の買収に合わせて以下のようにコメントしている。
Moët Hennessyのグローバルな流通の力、比類なき強固なポートフォリオ、高級ブランドの開発における長年の卓越した実績によって、Armand de Brignacはより成長して、繁栄するための必要な商業的後押しを得ることができると確信している。
Jay-Zは、今やビジネスやテクノロジー業界で存在感を放っている。Twitterのジャック・ドーシーCEOとのBitcoinへの投資、Roc Nationの創業、そしてUberやImpossible Foodsへの投資など、投資家ショーン・コーリー・カーター(Jay-Zの本名)としての活躍は目覚ましい。
しかし、今回の買収はJay-Zの投資家としての手腕を証明するだけでなく、近年のラグジュアリー業界における、ブランドとセレブリティの関係を示唆している。