2020年2月9日、日本たばこ産業株式会社(以下、JT)は日本市場を含むタバコ事業の本社機能を、スイスのジュネーブにある子会社 JTインターナショナル(以下、JTI)に一本化することを発表した。
発表によると、タバコ事業のスイス移転は、Reduced-Risk Products(喫煙に伴う健康リスクを低減させる可能性のある製品)への注力や、グローバル市場での競争力強化が目的とされている。また、これに伴って支社体制の再編や、タバコやフィルターの製造拠点の廃止、社員やパートタイマーからの希望退職者募集がおこなわれる。なお、医療・食品事業やグループ全体の人事といった機能は東京に残る。
なぜJTは、スイスにあるJTIにタバコ事業を一本化するのだろうか。
国内市場の縮小と海外市場の躍進
タバコ事業の一本化のもっとも大きな要因は、国内市場の縮小と海外市場の躍進だ。
JTの2020年度決算によれば、前年比で売上収益は3.8%減となる2兆926億円、営業利益は6.6%減となる4691億円と全体的に減益となっている。また年間の配当金も、2020年の1株あたり154円から2021年度は1株あたり130円と、上場以来初の減配を見込んでいる。
コロナ禍の影響もあったとはいえ、競合のフィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)やブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)の決算報告と比較すると、やや低調と言えるだろう。
国内市場の縮小
日本の国内市場の縮小は海外からも指摘されている。米国の研究グループによる2019年の論文によると、日本ではPMIの製品である iQOSのような加熱式タバコが販売されてから、紙巻きタバコの売上が大きく低下した。また同研究では、調査期間中、タバコ全体の合計売上は減少傾向にあったと言及されている。
他方で、加熱式タバコは低調なタバコ市場にあってシェアを伸ばしている。しかし、JTはここでも出遅れてた。
日本たばこ協会のデータによれば、2020年度の第2四半期累計で212億本、販売数量・販売定価代金ともに紙巻きタバコの販売実績と比較して約4割となっている。JTもPloomシリーズのような加熱式タバコを展開しているものの、PMIのiQOSやBATのgloなどと比べて、国内シェアは1割程度にとどまっている。iQOSは2016年、gloは2017年、そしてPloomは2018年に全国販売が始まっており、時期的に見てもJTが競合他社と比べて出遅れた感は否めない。
このように、日本のたばこ市場は全体的には縮小傾向で紙巻きタバコの売上は低下しており、成長している加熱式タバコのシェア獲得では劣勢に立たされるなど、JTは国内市場で苦戦を強いられている。こうした中、JTが活路を見出すのが海外市場だ。