2021年3月15日、世界の音楽業界で最大の賞の1つである、第63回グラミー賞授賞式が開催される。授賞式に先駆けて開催されたプレミアムセレモニーでは、ノミネートされていたBTSの楽曲「Dynamite」が「最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞」の受賞を惜しくも逃した。
本授賞式はコロナ禍の影響で延期されていたが、ビヨンセやビリー・アイリッシュ、BTSなど、日本でも有名なアーティストたちがノミネートされ、数多くのパフォーマンスが披露されることも見どころとなっている。
しかし、世界的に名誉ある賞の1つであり、キャリアやセールスにも大きな影響を与えるとされるグラミー賞は、数々の批判にも晒されている。
例えば2020年にビルボードチャート5部門で1位を獲得した初のアーティストで、2021年の第55回スーパーボウルのハーフタイムショーにも出演したThe Weekndは、自身の功績や評価にもかかわらずノミネーションがなかったことを受け、今後のグラミー賞へのボイコットを表明した。One Directionの元メンバーであるゼインや、The Chainsmokers(ザ・チェインスモーカーズ)やBTSとのコラボレーションでも知られるホールジーも、2021年のノミネーションに対して批判的なコメントをSNSに投稿している。
なぜグラミー賞は、さまざまなアーティストたちから批判されているのだろうか。
人種差別問題
まず指摘されているのが、非白人アーティストに対する人種差別だ。
1957年にグラミー賞が創設されて以来、ノミネートこそあるものの、最優秀アルバム賞に輝いた黒人アーティスト(あるいは黒人アーティストが参加しているグループ)はわずか12組しかいない。非白人に広げても16組と、受賞者の人種編成には非常に偏りがある。
作品が評価され、主要部門にノミネートされても受賞できない、という事態も多々起こっている。例えば2015年と2017年のグラミー賞では、ビヨンセのアルバムや楽曲が、作品の芸術性や革新性から高く評価されたにもかかわらず、BECKやアデルといった白人アーティストに主要部門で敗れる事態となった。ライターのポール・シュロットはINSIDERの記事で、作品の芸術的評価や歴史的重要性ではなく、ジャンルや売上に依拠するグラミー賞の保守性を、カニエ・ウエストやフランク・オーシャンなどの発言に言及しながら批判している。
音楽ジャンルと人種の結びつきは、グラミー賞での評価にも影響している。例えば黒人がアーティストの多くを占めているヒップホップについては、その人気の上昇度に比してグラミー賞での評価が低いことが指摘されている。
こうした現状について、音楽業界の研究者であるジョン・ビラノワは、R&Bやヒップホップなど、特定ジャンルの部門で非白人による受賞者数が多いにもかかわらず、主要部門でほとんど受賞機会がないことや、生楽器の有無やダンスの有無が評価に影響していることなどから、音楽業界には人種差別が制度的に組み込まれていると論じている。