STEMという語が指す科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・数学(Mathematics)をはじめ、科学技術分野への女性の進出が注目を集めている。最近でも、2021年8月4日、株式会社メルカリ代表取締役である山田進太郎が、ダイバーシティ&インクルージョンの推進を目的とした財団を立ち上げ、STEM(理系)高校生女子奨学金を開始すると発表している。
2011年、茨城県立水戸第二高校卒業生の女子学生たちによる論文が国際誌に掲載されたことで「リケジョ」という言葉も人口に膾炙したが、こうした科学技術分野への女性の進出は、経済・技術面だけでなく、男女共同参画社会の実現に向けても重要視されている。
しかし他方で、日本の科学技術分野における女性の置かれた現状に対しては、しかるべき環境整備の遅れが批判されている。
では、日本において女性はSTEMを含めた科学技術分野にどの程度進出しているのだろうか。
日本の科学技術政策
そもそも、日本の科学技術政策において、女性の科学技術分野への進出はどのように扱われてきたのだろうか。 日本の科学技術政策は技術革新や経済など、さまざまな目標やニーズをふまえて展開されてきたが、女性研究者について初めて明確な言及がなされたのは、2001年の第2期科学技術基本計画(以下、第n期計画)だ。
科学技術基本計画は、科学技術基本法に基づいて、科学技術の振興に関する総合的かつ計画的な施策をおこなうために5年ごとに定められる。いわば日本の科学技術政策の基本戦略を示したものだ。
第2期計画:初めての言及
およそ20年前に発表された第2期計画では、「優れた成果の創出・活用のための科学技術システム改革」に向けた各施策の中で「女性研究者の環境改善」という項目が設けられている。ここには
男女共同参画の観点から、女性の研究者への採用機会等の確保及び勤務環境の充実を促進する。特に、女性研究者が継続的に研究開発活動に従事できるよう、出産後職場に復帰するまでの期間の研究能力の維持を図るため、研究にかかわる在宅での活動を支援するとともに、期限を限ってポストや研究費を手当するなど、出産後の研究開発活動への復帰を促進する方法を整備する。
と記されている。第1期計画の期間中である1999年から男女共同参画基本法が施行されており、冒頭の文面からも、この影響が見て取れる。ここから、女性の科学技術分野への進出は男女共同参画の文脈を受けてようやく政策的な課題となったと言えるだろう。またこの時点では、採用機会等の確保と出産後の職場復帰が主たる施策とされている。
第3期計画:基本方針の策定
続く2006年の第3期計画では、「人材の育成、確保、活躍の促進」に向けた「女性研究者の活躍促進」という項目が設けられている。ここでは引き続き男女共同参画の観点もふまえつつ、以下のような施策を国や大学・公的研究機関等に求めている。
- 競争的資金等の受給において出産・育児等に伴う一定期間の中断や期間延長を認めるなど、研究と出産・育児等の両立に配慮した措置の拡充
- 研究と出産・育児等の両立支援を規定し、環境整備のみならず意識改革を含めた取組の着実な実施
- 女性研究者の採用、昇進・昇格や意思決定機関等への参画等の積極的な登用
- 理数好きの子どもの裾野を広げる取組の中で、女子の興味・関心の喚起・向上に資する取組強化や、女性が科学技術分野に進む上での参考となる、事例・ロールモデル等の情報提供の推進
これらは、第2期計画で示されていた施策方針をより具体的に言語化した上で、女子・女性向けの科学技術分野への興味関心の喚起や情報提供も提起されている。後述する第6期計画の内容に鑑みても、この頃に女性の科学技術分野への進出に関する施策方針は固まったと見られる。
だが、第3期計画のもっとも重要な点は、具体的な数値目標が提示されたことだろう。計画では、「現在の博士課程 (後期)における女性の割合に鑑みると、期待される女性研究者の採用目標は、自然科学系全体としては25%(理学系20%、工学系15%、農学系30%、保健系30%)である。」と、博士課程在籍者の女性の割合から研究者の採用目標が提示されている。この数値は、後の計画の進捗を測るベンチマークとなっている。
第4期計画以降:継続的な課題へ
その後、2011年の第4期、2016年の第5期計画、そして2021年の第6期計画でも、第3期と同様の項目が設けられ、男女共同参画の観点とともに「多様な視点や発想を取り入れ、研究活動を活性化し、組織としての創造力を発揮する」上での重要性も指摘されている。これらの文面からは、女性の科学技術分野への進出が、継続して重要な政策的課題のひとつとみなされていることが伺われる。