・オリガルヒはロシアのみならず、ウクライナ政財界でも影響力を行使。
・西洋諸国で投資活動をおこなう、民主主義と市民社会の発展に反するとして近年制裁が進んでいた。ただし制裁の効果は、懐疑的な見解も多い。
ロシアがウクライナへの侵攻を開始してから、約3ヶ月が経過した。この間、欧米諸国はウクライナ支援策の一環として、ロシアに対する経済制裁を相次いで実施している。制裁の具体的な内容として、現在までにロシアの主要銀行を対象としたSWIFTからの排除(金融制裁)および禁輸(通商制裁)などが実施されている。
そうした経済制裁の一環として行われているのが、オリガルヒと呼ばれる富裕層の資産凍結だ。日本では必ずしも存在が広く認知されているとは言えないオリガルヒだが、その政治・経済に対する影響力はロシア国内外に及んでいる。
各国が無視することのできないオリガルヒとは、一体どのような集団なのだろうか?
オリガルヒとは?
そもそもオリガルヒ (Олигархи) という単語は、ギリシャ語で「少数者」(olígos) および「支配」(arkhê) を組み合わせた oligarkhês に起源をもつ一般名詞だ。
英語読みだと「オリガーキー」で、通常は「寡頭制」(かとうせい)と訳される。特定の少数グループが、政治的権力の全てあるいは大半を掌握している体制を意味する。元来は「アナーキー」(無政府状態)や「モナーキー」(王制)などと同様、特定の政治体制を表しており、「ポリアーキー」(多頭制)と対比して理解される。
ただし、この単語がロシア語読みされる場合、これに加えて特定の意味を持つ。すなわち、ソ連崩壊後の経済自由化に乗じて勃興した新興財閥が、寡頭制を行う者、すなわち「オリガルヒ」と呼ばれているのだ。
オリガルヒの影響力はロシアを中心に、ベラルーシやウクライナの政界・経済界にまで及んでいる。比較的著名なオリガルヒには、世界最大の天然ガス企業のガスプロム経営者アレクセイ・ミレルや、ロシア国内の大手SNS、VKontakte の所有者アリシェル・ウスマノフらがいる。
オリガルヒの歴史
オリガルヒはロシアの政界・経済界を支配するフィクサーのイメージで語られることがあり、媒体によっては「政商」と訳されていることもある。ただし後述するように、彼らは必ずしも政府と一枚岩とは言えず、ロシア経済の発展における彼らの役割には功罪の両面が指摘されている。
しばしばプーチン政権との関係が取り沙汰されるオリガルヒだが、一体どのような過程で勢力を伸ばしたのだろうか?
ソ連崩壊後の勃興
そもそもオリガルヒの出自はソ連崩壊にある。1991年に誕生した新生ロシア共和国は経済自由化を掲げ、ソ連時代の国営企業の解体・民営化を推進した。
これに際し、ソ連時代に官僚や国営企業の職工長を務めた「ノーメンクラトゥーラ」と呼ばれた支配層の一部は、民営化に際して有利な立場で情報を得ることができた。社会主義体制下で特権層化したことから「赤い貴族」とも呼ばれる彼らは、新しく誕生した私企業において経営者の地位を得ることに成功した。
また新興起業家の一部には、民営化に伴い生じた裁定取引(同じ価値を持つ商品の一時的な価格差を利用して利益を得る方法)の機会を利用するものも現れる。ロシア政府は国営企業の競売に際して、民間に市場経済を定着させる狙いから、1992年10月、広く国民に一律でバウチャー(民営化小切手)を給付し、それを入札に利用させる方式を取った。このとき、一部の事業家がこれに伴う統制価格と市場価格との乖離を利用したのだ。
例えばカハ・ベンドゥキゼというトビリシ出身の実業家は、1990年代前半に一般国民からバウチャーを安価で買い集め、それを元手に大手重工企業「ウラルマッシュ」の経営権を取得することに成功した。ベンドゥキゼの事例のように、国有企業払い下げの過程で蓄財した経営者層は、オリガルヒと称されるようになった。
ロシア経済の自由化における役割
このような経済自由化の過程で誕生したオリガルヒの評価については、功罪の両面が指摘されている。