・路上生活期間の長期化・健康状態の悪化が問題となるものの、路上生活維持を望む人は50%。
・若い世代も「その場しのぎの生活」を強いられ、困窮者の下支えが急務となっている。
4月、厚生労働省は5年ごとに実施している「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)」(以下実態調査)を公表し、平均年齢が最も高齢化していることや70歳以上の割合が最も多くなったことがわかった。
ホームレス問題をめぐっては、2001年にいわゆる「ホームレス自立支援法」が成立して以来、路上生活者の数は大幅に減少したものの、今回の調査結果が示すように高齢化などの問題がなおも指摘されている。その一方で、「ネットカフェ難民」といった路上以外の場所で不安定な生活を送る若い人々の存在も明らかになっている。
では、そもそもなぜ路上生活者の間で高齢化が進んでいるのか?そして、若くて貧しい人はどのような状況にあるのだろうか?
ホームレス問題の現在地
高齢化や若い世代の貧困へと目を向ける前に、現在のホームレス問題について、前述した実態調査の結果や専門家の指摘をもとに紐解いてみよう。
「ホームレス」とは何か?
ホームレス問題に触れた以前の記事でも書いたように、まず「ホームレス」という用語について簡単に整理する。用語の定義は、実態把握や支援策を考える上で重要だ。
そもそも、「ホームレス(homeless)」は、ある状態を指す形容詞であり、人の特徴や属性を表すものではない。そのため、「ホームレス状態にある人」や「路上生活者」といった用語がより正確だ。
そして、この「ホームレス」には2つの定義がある。1つ目の定義は、「ホーム」を「ハウス(家)」と同義として扱い、「ホームレス」を「住居がない状態」に限定する狭い定義だ。この定義は、ホームレス自立支援法に採用されており、同法はホームレス状態にある人々を
都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者
と定めている。
これに対し、「ホームレス」はより広い意味を含むとするのが2つ目の定義だ。「ホーム」には「ホームシック」や「ホームタウン」のように、住居に限らず、社会的繋がりや故郷的な意味を持つ場合がある。ゆえに「ホームレス」は住居の喪失だけでなく、社会的繋がりの喪失をも含むべきで、住居の喪失は「ハウスレス」とすべき、と批判がなされている。
本記事ではこうした議論を踏まえ、厚生省の調査が指す「ホームレス」やその状態にある人々を「路上生活」「路上生活者」として記し、住居だけでない、社会的孤立などを含む状態を「ホームレス」として扱う。
路上生活者の減少
ホームレス問題の現状として、路上生活者の数は全体的に減少傾向にある。
厚生労働省の調査によると、2020年時点で日本において路上生活者は3,992人となっている。内訳としては、男性3,688人・女性168人・不明136人であり、都道府県別でも見ると、最も多い大阪府の1,038人に次いで、東京都の889人、神奈川県719人が続いている。
2001年におこなわれた初の全国調査(概数調査)では、2万5,296人が確認されていたため、20年前と比較しても大きく減少していることが分かる。(*1)
(*1)ただし、厚生労働省や行政の調査が昼間に行われていることから、日中は仕事などに従事している路上生活者を把握できていない、という批判もある。東京ストリートカウントが実施している深夜帯の調査では、東京都の把握よりも2.3倍多い路上生活者が確認されている。
路上生活者の高齢化
路上生活者の絶対数は減少している一方で、その年齢は高齢化する傾向にある。
今回の実態調査における年齢分布は、70歳以上(34.4%, *2)、65〜69歳(20%)、60〜64歳(15.6%)、55〜59歳(10.7%)50歳以下(18.2%)となっており、高齢者とされる65歳以上の割合は、54.4%となっている。
この年齢分布を過去の調査(下図)と比べてみると、2003年(平成15年)から徐々に高齢者の割合が増加していることがわかる。