ロシア産エネルギーからの依存脱却(脱ロシア依存)に向けて、各国が動き始めている。G7(主要7ヶ国)首脳は5月8日、ロシア産原油の輸入禁止に向けた取り組みの推進を共同声明のなかで発表した。ロシアは、国家歳入の約4割を石油・ガス関連の収入で賄っており、G7による原油の禁輸措置が実現すれば、ロシアにとっては強力な経済制裁となる。
エネルギー分野でのロシアへの制裁を考える上で重要になるのが、EUの動向だ。欧州はエネルギー面でロシアに強く依存しており、欧州で輸入される原油の29%、天然ガスの38%は、それぞれロシアからの輸入だ(2020年)。一方、ロシアにとっても欧州は重要な取引先であり、ウクライナへの侵攻開始前、ロシア産原油の50%以上は欧州に輸出され、天然ガスの最大の買い手も欧州だった。
ウクライナ侵攻を受けて、EUは結束してロシアへの強硬姿勢を見せており、先の共同声明が発出されたG7首脳会合にもフォン・デア・ライエン欧州委員長が出席した。しかしロシアへのエネルギー依存度が高い以上、この依存脱却に向けて、EUは相応の備えをしなくてはならない。
では、EUは脱ロシア依存に向けて、どのようなロードマップを描いているのだろうか?
ロシアからのエネルギー供給が止まる可能性
ロシアからEUへのエネルギー供給は、供給を受ける側であるEUによる経済制裁に加えて、供給国であるロシアの報復措置によっても、停止される可能性が高い。
まずは被供給国(EU)と供給国(ロシア)、双方の対応を確認したい。
EU、2027年までにロシア依存から脱却
EUは3月、2027年までに脱ロシア依存を進める方針を発表した。この方針に従って、5月18日には目標実現に向けた具体策をまとめた政策文書も発表されている。
すでにEUは原油と石炭について、禁輸措置を実施する方針を示している。EUは6月4日、ロシアへの追加制裁として、年内にロシアから輸入する原油の9割を禁輸することを発表した。すでに4月にはロシア産石炭の輸入禁止に合意しており、石炭に続いて原油も禁輸の対象となった格好だ。残る重要なエネルギーは天然ガスだが、これについてもEUは、年内にロシア産ガスへの依存度を1/3にまで下げることを検討している。
ロシア、欧州へのガス供給停止を拡大か
一方、ロシアも自身のイニシアチブによってEU域内へのエネルギー供給の停止に動き始めている。
ロシアの国営ガス企業・ガスプロムは4月27日、ルーブル建ての代金決済に応じないことを理由として、ポーランドとブルガリアへの天然ガスの供給停止を発表した。さらに5月11日にはロシア政府が、ガスプロムの元ドイツ子会社で現在はドイツ政府の管理下にあるガスプロム・ゲルマニアや、ポーランド国内でロシア産天然ガスを輸出するパイプラインを運営する企業などに対して制裁を発動した。この制裁措置によって、ロシア企業は制裁対象との取引が禁止される。
こうしたロシアによるエネルギー供給停止の動きは今後さらに拡大する可能性もある。フィンランドの地元新聞は5月12日、ロシアがフィンランドに対して、ガス供給を停止する可能性があると警告していることを報じた。報道の信憑性は明らかになっていないが、フィンランド政府は同5日、ルーブル建て決済に応じていないことを背景に、ロシアからのガス供給が停止する可能性があることを発表している。
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EUは代替エネルギーをどう確保?
ロシアからのエネルギー供給の停止に備えて、EUは代替エネルギーの確保を急いでいる。
"短期的"には化石燃料にシフト
EUでは短期的な対応として、化石燃料の調達先の多角化が進みつつある。EUは今後、エジプト、イスラエル、ナイジェリアなどから液化天然ガスの輸入を増加させる可能性があり、イランもEUへの天然ガスの供給を検討している。