インターネットテレビ ABEMA が、今年カタールで開催されるFIFAサッカーワールドカップの全64試合を無料生中継することを発表した。「全試合無料生中継」は日本史上初であり、これまで民放キー局も実施してこなかった試みが、比較的新興と言われる配信サービスによって実現される。
ABEMAのワールドカップ放映権取得は、インターネット動画配信サービス(オーバー・ザ・トップ、OTT)の台頭とスポーツ中継の転換期を象徴する出来事と言える。
こうした市場の変動は「人々のテレビ離れ」のような単純な論理では十分な説明ができない。OTTの乱立の背景には、スポーツが巨大なビジネスへと成長していることに加えて、そこに巨額の資金が注ぎ込まれ、国家や大企業の利害が入り混じったマネーゲームが展開されている現実がある。
では、なぜスポーツをめぐる環境が大きく変化し、どのような経緯でOTTの乱立が起きているのだろうか?急激に高騰する放映権料や、取引されるビッグマネーなどの視点から読み解いていきたい。
乱立する動画配信サービス
OTTは「Over The Top(オーバー・ザ・トップ)」の頭文字をとった言葉で、電波放送や衛星放送といった従来のインフラに頼らず、インターネットを経由してコンテンツ配信をするサービスを指す(*1)。
YouTubeやNetflix、Amazon Primeといったインターネット動画配信サービスは、OTTの代表的例だ。日本でも、ABEMA(提供事業者:テレビ朝日)やTVer(提供事業者:在京キー局5社)といった地上放送事業者によるサービスに加え、U-NEXTやdTV(提供事業者:NTTドコモ)といったプレイヤーからもサービスが提供されている。
(*1)定義上、Spotifyのような音楽配信サービス、FacebookなどのソーシャルメディアもOTTに含まれるが、本記事ではスポーツ配信と関連性の高い動画配信サービスに焦点を当てる
成長する動画配信サービス(OTT)
定額制の動画配信サービスは、近年急速に成長しているマーケットのひとつだ。
例えば、世界の動画配信サービスの市場規模は2020年時点で747億ドル(およそ10兆円)、契約数は19億件を超えているとされる。また、日本国内における動画配信市場は同じく2020年で3,894億円、2021年には前年比19%成長の4,614億円と推計されている。
同マーケット大手であるNetflixの成長は、マーケットそのものの成長をよく反映している。2015年には一株50ドル程度だった同社の株価は、2021年末には700ドル近い値をつけるまでに高騰した(*2)。
では、なぜOTTはこれほどまで乱立しているのか。その答えは端的に言うとスポーツ中継と言うビジネスが「儲かる」からだ。そしてその背景には、巨大ビジネスとしてのスポーツ配信、そのマーケットの拡大、そしてそこに注がれる巨額の投資、という3つのポイントがある。
(*2)ただし、同社は2022年に入り10年以上ぶりの会員数減少の見込みを発表し、株価は暴落している。