近年、ヤングケアラー(young carer)という言葉を耳にする機会が増えてきた。
日本政府は2022年から2024年度の3年間をヤングケアラー問題の「集中取組期間」と定め、中高生におけるヤングケアラー認知度を5割に引き上げることを目指している(*1)。
また参議院選挙期間中の7月8日には、自民・公明・国民民主の各党幹事長がヤングケアラーへの支援策をめぐる会合を開き、取り組み方針をまとめた上で、継続的な検討を確認した。うち公明党は参院選の公約に「ヤングケアラーへの支援体制整備」を掲げ、兵庫選挙区(改選定数3)では、ヤングケアラー支援の実績を持つ同党・伊藤孝江氏が再選を果たしている。
ヤングケアラー問題は、日本社会で顕在化しつつある。例えば、大阪市が市立中学に通う全生徒約5万人を対象に実施した調査によると、回答者のうち9%がヤングケアラーに該当した。さらにその半数近くが毎日家族の介護や世話をしていることも明らかとなり、ヤングケアラーの当事者やその家族が抱える負担や生活への悪影響などが指摘されている。
しかし、日本におけるヤングケアラーの支援制度などは現時点で整備されておらず、英国やオーストラリアなどの国々に遅れをとっている状況だ。
具体的な支援体制の構築や法整備に向けて議論が始まっているヤングケアラー問題だが、そもそもどのような存在であり、どのような問題が議論されているのだろうか?
(*1)ヤングケアラーの社会的認知度は低く、支援を必要とするヤングケアラーがいても、ヤングケアラー自身や周囲の大人がその存在に気付かないことが課題とされる。そのため政府は、まずはじめにヤングケアラー本人および周囲の中高生をターゲットとして認知向上を目標としている。
ヤングケアラーという存在
まずヤングケアラーに関して、どのような実態が分かっているのだろうか?
ケア責任を負う18歳以下の子ども
社会学者の澁谷智子氏は、ヤングケアラーを「家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18歳未満の子ども」と定義している。
同様に厚生労働省も、ヤングケアラーを「本来大人が担うと想定されているような家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども」と表現している。同省は、その具体例として以下のような子どもの特徴を挙げている。
- 障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている
- 日本語が第一言語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている
- 家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている
- アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している
こうした子どもの置かれる状況は、決して近年になって突然生まれてきた問題ではない。しかし、日本でヤングケアラーが社会の関心を集めるようになったのは最近であり、その存在は2014年ごろから次第に報じられるようになった。
ヤングケアラーはクラスに1〜2人
ヤングケアラーは決して珍しい存在ではなく、通常サイズのクラス(*2)に平均1〜2人いると言われている。