6月19日、フランスで下院総選挙の決選投票が行われ、エマニュエル・マクロン大統領率いる与党連合「アンサンブル」が過半数を割る結果となった。フランスの下院である国民議会は定員577名であり、過半数を得るためには289議席が必要だが、今回の総選挙でマクロン大統領率いる与党議席は245にとどまった。
他方、マリーヌ・ルペン率いる右派「国民連合」や、ジャン=リュック・メランション率いる左派連合「NUPES(*1)」は躍進し、とりわけ前者は改選前の8議席から89議席へと大きく勢力を伸ばした。
この選挙結果を受けて、各紙の一面にはをマクロン大統領の顔写真とともに「屈辱!」(『リベラシオン』)、「統治不能!」(『ル・パリジャン』『レクスプレス』)などといった見出しが大文字で掲載された。
なぜマクロン大統領の与党連合は、今回これほど議席を減らしたのだろうか? そして、フランスの政局は今後どこへ向かってゆくのだろうか?
(*1)発音は「ニュペス」「ニュップ」など統一されていない。ロゴマークにギリシャ文字の「ν」(ニュー)を採用しており、硬直した政治の刷新を有権者に印象付けるものとなっている。
選挙結果の特徴は?
今回の総選挙において、有権者の票は極右から極左まで、おおむね以下の5極に分かれた。
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極右「国民連合(RN)」(8→89議席)
党首は5月の大統領選挙で現職と決選投票を争ったマリーヌ・ルペン氏。移民反対、反EUといった政策を掲げる。2017年大統領選挙に際して「国民戦線」(FN)から改称し、穏健路線を取っている。 -
右派「共和党(LR)」(112→61議席)
初代大統領シャルル・ド・ゴール以後、伝統的にポンピドゥやジスカール=デスタン、シラク、サルコジと複数の大統領を輩出してきた右派政党の系譜に位置付けられる。2015年に「国民連合運動」(UMP)より改称し、今回の選挙に際して中道右派連合(LR-UDI)を結成する。 -
中道「アンサンブル」(350→245議席)
マクロン大統領の「共和国前進」(LREM)を中心とする連合。改選前は350議席と下院において主要な勢力を有していた。 -
左派「社会党(PS)」(30→26議席)
1905年に起源をもつ由緒ある左派政党。ミッテランとオランドの2名の大統領を輩出した。 -
極左「不屈のフランス(LFI)」(17→72議席)
左派ポピュリズム的な政策を掲げ、ジャン=リュック・メランションの指導下で庶民層の支持を拡大する。今回の総選挙に際し、社会党と共闘して連合「NUPES」を結成し、その中核となる。
これら五大勢力のうち、今回の総選挙では中道、左派、右派が軒並み票を減らしたのに対し、極右と極左の躍進が目立った。
中道らが停滞、極右・極左が躍進
中道連合「アンサンブル」は第一勢力を維持するも、過半数割れとなった。連合の中核をなす「共和国前進」は与党を構成しており、改選前は総議席数577のうち350議席を有していたが(*2)、今回の総選挙では245議席へと大きく勢力を減らした。
伝統的な左右勢力も低調だった。右派「共和党」と左派「社会党」はかつて二大政党を形成してきた。だが、左派連合NUPESのうち社会党は今回の総選挙でわずか26議席と振るわない結果となった。共和党を中心とする右派連合(LR-UDI)も61議席と、改選前の112議席から半減となった。
これに対して、極右と極左という両ポピュリスト勢力の議席拡大が顕著に目立った。極右「国民連合」は改選前の8議席から89議席へと大幅に勢力を伸ばした。極左「不屈のフランス」を中心に形成された左派連合NUPESは142議席を獲得し、中でも「不屈のフランス」は改選前の17議席から72議席へと躍進した。
(*2)フランソワ・バイル氏による中道勢力「民主運動」(MoDem)を合算した数字。
なぜこのような結果になった?
5月に行われた大統領選ではマクロン候補が勝利したにもかかわらず、なぜ総選挙で中道連合「アンサンブル」は過半数割れとなったのだろうか?