外国人の技能実習制度が、人権侵害の温床になっていると批判されて久しい。実習受け入れ先によるパスポートの取り上げ、女性実習生への性暴力、休日返上での勤務の常態化など、技能実習生が受けた様々な被害が報告されている。
また米・国務省は、技能実習制度を「強制労働」として強く批判している。技能実習生の多くは日本への入国にあたって高額の手数料などを仲介業者に支払っており、その支払いのために多額の借金を負うことも少なくない。そのため、技能実習とは名ばかりで、実質的には「債務労働」となっているケースも多いのだ。
批判が高まるなか、2022年7月、政府はついに技能実習制度の本格的な見直しに着手すると表明した。国内外から批判が相次ぎ、政府も抜本的対策に乗り出した技能実習制度の問題とは、一体何なのだろうか?
技能実習制度とは何か?
制度の問題点を考える前に、そもそも技能実習制度とは一体どのようなものだろうか?
制度の目的
技能実習とは、日本で外国人が滞在・生活するために必要なビザ(在留資格)の種類の1つだ。在留資格のリストは、入管法によって定められており、3ヶ月以上日本に滞在する外国人はこのリストのいずれかの在留資格を得なくてはならない。
そして、この技能実習ビザで日本に滞在する外国人(技能実習生)は、技能実習法が定める技能実習制度によって、何らかの技術や知識を日本の企業などで働きながら学んでいる。ここで重要なのは、あくまで技能実習生は技術や知識を "学ぶ" ために滞在している点だ。
厚生労働省はホームページ上で技能実習制度の目的をこう説明する。
外国人技能実習制度は、我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的としております。
つまり、技能実習制度は開発途上国などに日本企業の持つ技術や知識を伝え、その国の経済発展を後押しするためのものであって、外国人を労働力として受け入れることを目的とはしていない。技能実習法3条2項も「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」として、労働力の調達手段として技能実習を用いることを明確に否定している。
実習の段階
技能実習制度では、技能の習得段階が大きく3つに分かれている。
日本に入国した技能実習生は約1ヶ月の座学での講習を受けた後に、受け入れ先の企業などで実習を行い、入国から1年間のこの実習期間は技能などを「修得」する段階と位置づけられている。その後も実習を続けると、今度は技能などを「習熟」する期間となり、追加で2年間の実習が行える。この習熟段階も終わると、最後は技能などに「熟達」する期間として、さらに追加で2年間の実習を行う。
したがって、技能実習は「修得」「習熟」「熟達」と3段階で構成され、最長で5年間の実習が可能となる仕組みだ(*1)。
また各段階で次のステップに進むために、技能実習生は学科試験や実技試験に合格しなくてはならない。そのため、技能実習生の技能レベルを公正に判断できる公的な技能検定がない業種では、「習熟」や「熟達」の段階へ移行することが認められていない。
もっとも実習とは言っても、技能実習生は一般の労働者と同じく労働に従事することになる。そのため、技能実習生は受け入れ先企業との間で雇用契約を結び、1年目の最初の講習期間を除くすべての実習期間で、労働基準法などの労働関係法令の適用対象となる。
(*1)制度上は、修得段階が第1号技能実習、習熟段階が第2号技能実習、熟達段階が第3号技能実習と呼ばれる。
実習の受け入れ先
また、技能実習生の受け入れ体制にも2つの種類がある。
まず1つ目が、1つの企業が単独で技能実習生の受け入れから実習までを行う場合だ。これは主に大企業が海外の現地法人や合弁企業の従業員を日本に呼び寄せて研修を行う場合などに利用され、制度上は「企業単独型」と呼ばれる。
しかし、2021年末現在、企業単独型で受け入れられている技能実習生は全体の1.4%ほどに過ぎず、98%以上は次の方式によって技能実習が行われている。
それが協同組合や商工会などの非営利団体が技能実習生を受け入れ、実習はその団体の傘下にある企業などで行うものだ。この場合、実習を行うのは中小企業や農家などが多く、制度上は「団体監理型」と呼ばれている。
なお、いずれの方式でも技能実習を行う場合には事前に技能実習計画を作成し、その計画が外国人技能実習機構(*2)によって認定される必要がある。もし、計画通りに技能実習が行われていないことが判明すると、認定の取り消しによって技能実習が中止されることもある。
(*2)技能実習法57条に基づいて設立された、法務省と厚生労働省が共同で所管する認可法人。
技能実習制度の現状
次に、技能実習制度の現状を確認してみよう。
2021年末現在、日本に在留している技能実習生は合計27万6,000人あまりとなっている。下のグラフが示すように、コロナ禍の影響を受けた直近2年を除くと、この人数は年々増加している。
研修生・技能実習生の在留状況(法務省・厚生労働省「外国人技能実習制度について(令和4年4月25日改訂版)」より, CC BY 4.0)
技能実習生は、日本と協力覚書を締結した国から受け入れることができる。現在までにベトナム、インド、中国などの16カ国と協力覚書を結んでおり、大半はアジア各国だが、南米のペルーとも覚書を結んでいる。
現在、特に受け入れ人数が多いのはベトナムで、全体の約58%を占める。なお、次に多いのが中国(約14%)で、インドネシア(約9%)、フィリピン(約8%)がそれに続く(数値はいずれも2021年末時点)。
さらに、業種別に見ると、受け入れ人数が多い順に、建設関係(約23%)、食品製造関係(19%)、機械・金属関係(約14%)、農業関係(約9%)となっている(数値はいずれも2020年度)。
技能実習制度は、なぜ生まれたのか?
冒頭でも触れたように、技能実習制度は国内外からの批判の的となっている。これらの批判が生まれる原因については次の記事で詳しく紹介するが、制度の根本的課題の1つが趣旨と実態の乖離があまりにも大きいことだ。
技能実習制度は「技能の海外移転を通じた国際貢献」を目的としている。しかし実態としては、日本企業に外国人労働者を供給する人手不足解消のための制度となってしまっている。政府による制度の本格的な見直しの方針を発表した会見の席でも、古川禎久法相は「制度の趣旨と運用実態が乖離せず、整合する」ことが必要と強調した。
技能実習制度は国際貢献なのか、人手不足を補うものなのか。この線引きが不明瞭なまま、日本は大量の外国人をアジア諸国などから受け入れている。では、なぜこのような矛盾が生じてしまったのか。そのヒントはこの制度が誕生した経緯に隠れている。