10月12日、英国のTimes Higher Education誌による最新の世界大学ランキングが発表された。
今年のランキングで首位となったのは英国のオクスフォード大学で、7年連続で首位をキープした。その他トップ10の顔ぶれは以下の通りだ。
- オクスフォード大学(英)
- ハーバード大学(米)
- ケンブリッジ大学(英)
- スタンフォード大学(米)
- マサチューセッツ工科大学(米)
- カリフォルニア工科大学(米)
- プリンストン大学(米)
- カリフォルニア大学バークレー校(米)
- イェール大学(米)
- インペリアル・カレッジ・ロンドン(英)
日本から200位以内にランクインしたのは東京大学(39位)、京都大学(68位)の2校だったが、いずれも昨年に比べて順位を下げるかたちとなった(*1)。他方、アジア圏では、清華大学(16位)、北京大学(17位)、シンガポール国立大学(19位)などの躍進が目立った。
近年、世界大学ランキング発表の時期になると毎年多数の報道がおこなわれている。それと同時に、ランキングの恣意性や評価基準の不備に対する批判を耳にすることも多い。
ところが、そうした多くの批判にもかかわらず、著名な大学ランキングは今なお世界中で参照され続けている。これは一体なぜなのだろうか?
(*1)昨年の同ランキングで東京大学は35位、京都大学は61位だった。
世界大学ランキングの歴史
まずは大学ランキングの歴史を読み解き、現在のような大学ランキングが普及するようになった背景を探ってみよう。
大学ランキング登場の背景
世界大学ランキングが生まれた社会的背景の一つには、グローバル化に伴う留学機会の増大がある。およそ西暦2000年頃から、今日見られるような大学留学が一般化していった。
こうして大学が国際競争に晒されるにつれ、教育改革に対する社会的要請が高まってゆく。その指針は概ね、
- 研究成果と生産性の改善
- 大学のガバナンス強化と財政状況に関する説明責任の増大
- 市場が要求する教育の質保証や認定
の3点に集約される。
この要請達成の指標とするため、国を越えた大学評価の共通基準の必要性が高まることとなったのである(*2)。
今日一般に利用されている世界大学ランキングも、そうした背景から生まれた。従来は政府をはじめとした公的機関による「制度型大学評価」が主流であったが、20世紀末からそれに代わって民間企業や団体による「市場型大学評価」が市民権を獲得し、21世紀に入って現在広く使用されているようなランキングが登場するようになった。
(*2)例えば、「エラスムス計画」など国境を越えた学生交流が前世紀末から盛んだったEUでは、1999年に「ボローニャ・プロセス」と称する学位認定基準の共通化・互換化が伸展した。外国語学習においてA1からC2までのレベルを定めたヨーロッパ言語共通参照枠の運用が始まったのもこの時期である。
三大ランキングの成立過程
現在、主に参照されているランキングには、上海交通大学の作成する「世界大学学術ランキング」、QS版「世界大学ランキング」、THE版「世界大学ランキング」の3つが存在する。それぞれの違いは以下の通りだ。
1. 世界大学学術ランキング
名称 | ARWU (Shanghai Ranking) |
成立年 | 2003年 |
運営元 | 上海交通大学(中国) |
詳細 | 同大学化学教授の劉念才氏が考案。 |
成立の背景 | 国内大学と世界の著名大学を比較する手段として開発。 |
2. QS版「世界大学ランキング」
名称 | QS World University Rankings |
成立年 | 2004年 |
運営元 | Quacquarelli Symonds社(英国) |
詳細 | 運営元は教育や留学を専門とする企業。留学生向けの情報提供、大学関係者向けのイベントを開催。 |
成立の背景 | 英国財務相による提言における、自国大学の国際的地位を測定する必要性の指摘を背景とする。 |
3. THE版「世界大学ランキング」
名称 | THE World University Rankings |
成立年 | 2010年 |
運営元 | Times Higher Education誌(英国) |
詳細 | 運営元はThe Times紙の付録から出発した高等教育情報誌。 |
成立の背景 | 当初はQSと共同で発表をおこなっていたが、2010年に提携を解消し独自ランキングを創始。 |
また、こうした三大ランキングの成長を受けて、近年ではランキングの多様化が進んでいる。三大ランキングの他にも多数の機関がランキングを発表し、さらに主要ランキングも分野別・地域別の個別ランキングを発表するなど、大学ランキングの市場は近年ますます拡大しているのだ。
評価基準の比較
このようにして世界大学ランキングは複数のものが並び立つこととなったが、成果の評価基準は機関によってそれぞれ異なっている(下記を参照)。
1. ARWU
- ノーベル賞・フィールズ賞を受賞した卒業生数(10%)
- ノーベル賞・フィールズ賞を受賞した教員数(20%)
- 引用率の高い研究者の数(20%)
- Nature, Science掲載論文数(20%)
- Citation Index被引用論文数(20%)
- 教育機関の規模:上記指数の総合点を教員数で割った値(10%)
特徴は、ノーベル賞・フィールズ賞を重視している点だ(重視しすぎているという批判もある)。
2. QS
- 研究者のピアレビュー(40%)
- 雇用者の評価(10%)
- 学生/教員比率(20%)
- 教員1人当たり論文引用数(20%)
- 外国人教員比率(5%)
- 留学生比率(5%)
論文の引用数、研究者のピアレビュー、雇用者の評価を重視する点が特徴だ。論文引用数はElsevier社のScopusデータベースを参照している。
3. THE
- 教育(30%)
- 研究:論文数、収入、評価(30%)
- 論文被引用数(30%)
- 国際化:教員、留学生、共同研究(7.5%)
- 産学連携(2.5%)
THEのランキングの特徴は、教育の比重が比較的大きい点だ。論文引用数の参照元としては、ScopusではなくThomson Reuters社のデータベースWeb of Scienceを使用していたが、2014年より再びScopusを採用している。
いずれのランキングにおいても、大学の国際化が評価に占める割合はそれほど大きくない点には注意が必要だ。すなわち、一般に信じられているように、留学生の受け入れや英語による論文発表がただちに順位向上にとって効果があるとは必ずしも言えないのである。むしろ、いずれのランキングも、評価基準として大きいのは研究の質、とりわけ論文の引用数である。
ところが、この基準が様々な批判のもととなっている。