国連・自由権規約委員会は11月3日、日本国内の人権状況について総括所見を発表した。この中で委員会は、入管の収容施設において外国人が劣悪な健康状況に置かれていることや、収容施設から仮放免を受けた人が収入を得られず困窮していることなどに懸念を示し、日本政府に改善を図るよう勧告した。
日本政府の出入国管理や難民認定における対応は、近年多くの批判を招いてきた。2021年に政府は入管法の改正案を通常国会に提出したが、同年3月に名古屋市の入管施設でスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが体調不良を訴えたあと亡くなったことを受け、入管の対応に批判が集まった。結局、改正案は成立しないまま廃案となり、これまで再提出には至っていない。
今回、国連は改善のために何を行うよう日本に勧告したのだろうか?それは今後の入管法を巡る議論にどのような影響があるのだろうか?
まず、国連の勧告がどのような経緯で行われたのかや、入管とは何かなど背景知識を概観したあと、勧告の内容を解説していく。それらが、入管法改正案の内容とどう関連するのか見た上で、今後の動きを探っていく。
国連の勧告とは何か?
今回、日本政府に勧告を行った国連自由権規約委員会は、国際人権規約のうち、B規約と呼ばれる自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)に基づいて設置された委員会だ。この条約は1966年に国連で採択され、1976年に発効。日本は1979年に批准している。
国際人権規約は、1948年に採択された世界人権宣言の内容を条約化している。中でも自由権規約は、恣意的な生命の剥奪や、拷問や残虐な刑罰、奴隷と強制労働、恣意的な逮捕や私生活への干渉などを禁止している。また、移動や居住の自由、法の前の平等、公正な裁判と無実と推定される権利などを規定している。
自由権規約の締約国は、国連自由権規約委員会に国内の人権状況や権利実現のために行った措置について報告し、審査を受けなければならない。これを受けて委員会は改善すべき点についての勧告などをまとめた総括所見を発表する。
今回の勧告は、2014年7月の第6回に次いで、7回目となる日本政府報告審査を受けたものだ。2017年12月に委員会から事前質問リストが送付され、日本政府は2020年3月に回答を行った。
また、日本国内の多数の市民社会組織(NPO法人、市民活動団体、ボランティア団体など)が、委員会に対してレポートを通じた情報提供を行った。その後、2020年10月にスイスのジュネーブで対面審査を行う予定だったが、新型コロナ禍の影響で延期となり、今年10月13日、14日に行われた。またこれに先立ち、10日にはNGOブリーフィングが行われ、委員会に対して市民社会組織が意見を述べている。
入管・入管法とは何か?
入管(出入国在留管理庁)は、法務省の外局で、入管法(出入国管理及び難民認定法)に基づき、外国人の出入国・在留の管理や非正規滞在が発覚した外国人の退去強制、難民の認定などを行う。入管の役割や入管法の規定、日本の出入国管理や難民認定の歴史的経緯については、以下の記事で詳しく解説している。
入管や入管法はこれまで、外国人の人権や尊厳の侵害を巡って厳しい批判にさらされてきた。入管施設への収容手続きの不透明さや救済制度の不在が指摘されてきただけでなく、施設職員による暴力や医療放置による収容者の死亡事例、仮放免者の困窮など多くの問題が発生したためだ。これまで指摘されてきた問題については以下の記事で詳しく解説している。
2021年2月には、退去強制になった外国人の収容長期化を解消する目的で入管法改正案が国会に提出された。しかし、ウィシュマさんの死亡事件を受けた反発の高まりや、難民手続き中の送還を可能にする規定は難民条約違反だといった批判を受けて、法案の採決は見送られた。
国連勧告の内容は?
では国連は、日本の出入国管理や難民認定制度についてどのような点を改めるように勧告したのだろうか?また、その内容は、主に収容の長期化を防ぐことを目的として提出された入管法の改正案とはどのような関係があるのだろうか?
総括所見のパラグラフ32,33でなされた入管に対する6つの勧告(*1)を、それぞれ項目ごとに、これまでの入管を取り巻く出来事や入管法改正案の内容とともに見ていこう。
(*1)総括所見の内容の和訳にあたっては、審査に参加した日本弁護士連合会の弁護士有志が作成した仮訳を参考にした。
① 国際的な基準に沿った難民保護法制の採用
日本は、難民認定率が極めて低いとして批判されている。入管によれば、2021年には難民不認定とされた人の数は1万人を超えている(一次審査と不服申し立てによる審査請求の合計)一方で、難民と認定した人の数は過去最高ながらわずか74人に留まっている。
また、2021年に申請を行った2413人のうち、52%の1248人は過去に難民認定申請を行ったことがある人だ。難民支援協会は、「難民として認定されるべき人が認定されない制度が故に、難民申請を繰り返さざるを得ない状況」があると批判している。
難民認定された人の他にも、難民とは認定されなかったが人道的な配慮を理由に在留を認められた人が580人となっている。このうち、クーデターによりミャンマーから避難してきた人は498人だ。しかし、2021年3月時点で3000人弱のミャンマー人が難民認定申請を行っているのに対して、難民として認定されたのはわずか32人となっており、入管が本来掲げていた「難民該当性が認められる場合には適切に難民認定」するという対処方針や国際情勢に沿っていないと難民支援協会は批判している。
日本の難民認定は、その厳しすぎる基準も批判されている。
入管は、「難民条約の定義に基づき、難民に該当すると認められれば、難民と認定しています」としている。しかし今日、難民条約の言うような人種や宗教、国籍、政治的意見を理由として迫害を受けるおそれがある政治難民に限らず、治安の悪化や紛争から逃れる人、また貧困からの生存のために移動する人など、国際的な保護の対象となり得る人々の範囲は広がっている。にもかかわらず、難民条約の「時代遅れ」な定義に固執することで、保護を求める人を締め出しているという批判だ。
入管法の改正案では、難民条約上の難民には該当しないが、紛争地などから逃れてきたために人道上の配慮が必要な人を「補完的保護対象者」として難民に準じて保護する制度の創設が盛り込まれている。こうした「補完的保護」の仕組みは、欧州連合(EU)などが導入している。
しかし難民支援協会や日本弁護士連合会(日弁連)は、改正案では、補完的保護対象者の定義が依然として難民条約の定義に拠っているため、その対象が限定的に設定されているとしている。そして、これでは難民には該当しないが保護を必要とする人を保護するという本来の目的を果たせないため、より広い定義に修正するよう求めている。
さらに、難民認定に関わる制度そのものを入管法から独立させ、独立した難民保護の法制度を創設するべきという指摘もある。
国連難民高等弁務官事務所は、難民認定制度や難民の社会統合などを包括的にカバーする法的枠組みを形成すること、そして難民関連の業務を担当する専門の政府機関を新たに設置することを提案している。難民支援協会も、難民保護のよりどころとなる法制度の確立を長年求めてきた。
国会では、2011年に「国内における包括的な庇護制度の確立」を求める決議が衆議院と参議院でともに全会一致で可決されている。また2021年の通常国会では、立憲民主党などの野党が「難民等の保護に関する法律案」を政府の入管法改正案への対案として提出し(*2)、入管から独立して難民認定を行う第三者委員会を新設することなどが盛り込まれている。移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)が2022年7月の参院選を前に行ったアンケートでも、立憲民主党、日本共産党、れいわ新選組、社会民主党が「入管法から独立した難民保護法を制定すべき」としている。
こうした指摘に対して入管は、難民認定手続きは、外国人の出入国在留管理と繋がりが深いため現状通り入管が行うのが適切だとしており、葉梨法務大臣(当時)も10月11日の会見で同様の見解を示している。
(*2)2022年の通常国会では、難民申請者の生活支援や送還停止効の例外範囲などについて修正を加えた新たな法律案が立憲民主党などにより提出されている。
② 収容施設での処遇の改善
総括所見は、2017年から2021年の間に入管の収容施設で3人の被収容者が死亡したことに触れ、収容施設における劣悪な健康状況(”poor health conditions”)に懸念を表明している。
実際、入管施設では外国人が収容中に亡くなる事例が相次ぎ、2007年以降で17人が亡くなっている。これに加えて11月18日には、東京の入管施設で収容中だったイタリア人男性が死亡した。自殺したとみられているが、男性は仮放免許可が取り消されて10月25日から収容されていた。自殺した被収容者は2007年以降で6人目となる。
被収容者の死亡事例が相次ぐ背景には、収容施設での医療体制が不足している他に、施設職員の間で外国人に対する人権意識が欠如しているという指摘がある。
2014年には、東日本入国管理センターで収容中だったカメルーン人の男性が胸の痛みを訴えたのにも関わらず医療を受けることのできないまま亡くなった。今年9月に水戸地方裁判所は入管が男性に適切な医療措置を講じなかったとして国に損害賠償を命じている(原告と被告双方が上告したため裁判は現在も継続中)。
この事件の後も、入管施設での医療体制が十分に改められたとは言えない。2021年3月に名古屋入管でウィシュマさんが亡くなった事件では、ウィシュマさんが病気を訴え治療を求めていたにも関わらず、施設職員が真剣に受け止めず必要な治療を行わずウィシュマさんを死亡させたとして、遺族が国に賠償を求める裁判を起こしている。
この事件について入管は、2021年8月に調査報告書を発表し、被収容者の体調の把握と必要な対応を指示する体制や職員教育の不十分さ、また医師や看護師の不在など医療体制の不備を指摘した。その上で体制強化やマニュアル整備などの対策を進めている。
しかし、いずれのケースにおいても、問題は医療体制だけでなく、収容されている人が病気や痛みを訴えているにも関わらず、施設職員が「詐病」とみなしたり、放置して治療を受けさせないといった、人命を軽視した姿勢にもある。施設職員による被収容者への暴力行為も相次いでいるが、その背景にも外国人を見下し尊厳を傷つける態度があることが指摘されている。
③ 仮放免中の生活状況の改善
総括所見は、”Karihomensha”(仮放免者)と固有名詞を用いて、就労や収入を得る機会を与えられていないことによる不安定な生活状況に懸念を示している。
仮放免とは、就労禁止や都道府県外への移動禁止といった条件付きで収容施設から解放することだ。解放されても、定期的に入管に出頭し、期間を更新しなければならない。また、各種行政サービスを受けることはできない。
仮放免の対象は、入管独自の運用方針次第で変更されてきた。2010年7月には収容長期化の回避のため仮放免を弾力的に活用するとの方針を発表したが、2015年9月には対象を限定した運用に転換した。さらに2018年2月には仮放免の条件がより厳しくなり、「送還が可能になるまで収容を継続し送還に努める」とされた。
しかし、新型コロナの感染拡大を受けて入管施設内の密を避けるため多くの仮放免が出された。2019年末の仮放免者は2,217人でそれまでは減少傾向にあったが、2020年末には3,061人、2021年末には4,174人と、パンデミックの間に倍近くになっている(*3)。
仮放免中の人たちの中では、収入を得られず貧困の状態にあり、また福祉サービスを受けることもできず生活が立ち行かない人が多い。
2021年10月から12月の北関東医療相談会による調査では、全国の仮放免者141世帯のうち、70%が年収0円と答え、66%が借金があると答えている。また、9割の世帯が生活苦を訴え、食事回数を制限している人(76%)、家賃(40%)やガス光熱費(35%)を滞納している人、医療機関を受診できない人(84%)が多くいることが分かっている。
移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)や北関東医療相談会などは、仮放免者の生活と命を存続させるためとして、仮放免者に就労や医療保険の加入を認めることなどを求めている。
入管法の改正案では、後述の「監理措置」の創設に伴い、仮放免を「健康上、人道上等の理由により収容を一時的に解除する必要が生じた場合に許可する」として、仮放免制度をより限定的に運用する方針となっている。これらの条件に違反して逃亡した場合は刑事罰の対象となることも新たに盛り込まれ、難民支援協会は、「日本に逃れた難民の立場をさらに不安定にする」として反対している。
(*3)退去強制令書の発布を受けた後に仮放免されている人の数。移住連や北関東医療相談会が今年10月の省庁交渉で公開した資料では、この他に収容令書を受けた後に仮放免されている人の数も合わせると、2021年末の仮放免者の数は5910人になるとされている。
④ ノンルフールマン原則の尊重と難民審査での司法アクセスの確保
総括所見は、難民条約第33条で規定されているノンルフールマン原則(迫害を受ける恐れがある外国人を送還・追放したり、入国を拒否したりすることを禁じる決まり)を遵守するよう求めている。
入管法改正案では、難民認定手続き中は送還が停止される現在の規定を改め、3回以上の難民認定申請を行った人については、手続き中であっても強制送還できるようにするための例外を設けることとしている。
これは入管側が、難民認定手続き中は送還が停止されることに着目した人について、難民認定申請を繰り返すことで日本からの退去を回避しようとすることを問題視しためだ。その上で、同じような主張を続けて難民認定申請を3回以上繰り返す人は、難民として保護されるべき人には当たらないとしている。
この規定に関しては、送還された人が出身国で迫害などにより危害に遭う恐れがあり、ノンルフールマン原則に違反するとして、難民支援協会や日弁連が反対し、また国連人権理事会の特別報告者と恣意的拘禁作業部会や、国連難民高等弁務官事務所が懸念を表明している。
また国連は、難民審査が不認定だった場合に、申請を行った人がその決定に関して独立した司法機関に不服申し立てをできるようにすること、また、その間申請を行った人の送還を停止するように求めている。
入管は、現在でも難民認定の審査に不服があれば審査請求ができること、また審査請求に対する判断は3名の難民審査参与員の意見を踏まえて法務大臣の評決に取り入れられていること、さらに不服があれば裁判所に訴えを提起できることなどから、適正が担保されているとしている。また、審査請求中や裁判所が送還の執行停止を決定したときは、送還が停止されるとしている。
⑤ 収容の代替措置や上限期間、司法審査の導入
入管施設で非正規滞在者の収容が長期化している問題は、国際的な批判を浴びてきた。
前述の通り、パンデミック中に仮放免が多く出されたことにより、入管施設に収容されている人の数は、2019年6月末の1,253人から、2021年末の124人に大きく減った。しかし2018年頃から、収容期間が6ヶ月以上の被収容者が約半数を占めるようになり、1年6ヶ月以上の割合も増加している。
2020年には、国連人権理事会の恣意的拘禁ワーキンググループが、難民申請中のデニズさんとサファリ・ディマン・ヘイダーさんの通報を受けて、10年以上にわたって断続的に6カ月から3年の収容を繰り返したことは自由権規約第9条などに違反するとした。その後2人は国に損害賠償を求めて、2022年に東京地裁に提訴している。
今回の国連勧告は、日本が外国人の入管施設への長期収容を回避するための措置を検討する意思を有していること自体は歓迎している。一方で国内団体からは長期収容の解消に繋がる十分な内容ではないという批判も聞かれる。
入管法改正案では、収容の代替措置として、入管施設ではなく「監理人」のもとで社会生活を営むことを認める「監理措置」の創設が盛り込まれた。この際、住居や行動範囲の制限、呼び出しに対する出頭義務などの監理措置条件を遵守することが外国人には求められる。
しかし、受け入れ側である監理人に定期的な報告を求めるなど民間に重い負担を強いることになる懸念がある。また、外国人本人の親族や知人、弁護士、支援団体などが監理人になることが想定されるため、外国人を支援するという本来の立場と、監理措置条件が遵守されているかどうかを監督して、入管に届け出る義務は互いに相容れず、外国人と支援者の間での信頼構築の障害となるという指摘がある。
また入管法改正案は、収容の代替措置として監理措置を創設する一方で、収容期間の設定や短縮、収容の要件の明確化などは行っていない。さらに監理措置が適用されない場合は義務的に収容される規定となっていることから、収容が最後の手段として用いられるどころか、むしろ収容ありきなことに変わりはないという批判がある。
非正規滞在の外国人の収容が司法審査を経ないで実施されることについては、手続き的権利を保障しておらず自由権規約第9条4項に違反しているという指摘もかねてからなされてきた。しかし入管法改正案では収容するか否かを裁判所が判断する仕組みは設けられていない。
また、不当な拘留により権利の侵害を受けた個人が、国連人権委員会に救済を求められないことも問題視されてきた。自由権規約と同時に採択された、個人通報制度を定めた第一選択議定書を日本が批准していないことが原因だ。総括所見はパラグラフ5で議定書への加入に向けて措置を講じるよう求めている。
⑥ 庇護申請者の権利尊重のため、入管職員への訓練の実施
入管の施設で外国人の人権や尊厳の侵害が繰り返される背景には、外国人の存在を日本社会に不安をもたらす存在とみなし、外国人技能実習制度にまつわる建前(「労働者ではなく実習生」)とともにその存在を否定し続けてきた歴史的経緯がある。また、入管職員が外国人や難民申請者などを見下していたり、犯罪者であるかのように扱っていることが明らかな事例が多く報告されてきた。
本来、入管施設を監視するはずの入国者収容所等視察委員会は、独立性が担保されておらず、機能不全に陥っていることが指摘されている。日弁連やアムネスティ・インターナショナルなどが独立した第三者機関の設置を求めている。
独立した国内人権機関の設立
これまで述べてきた、入管に対する勧告以外でも、外国人差別の問題や、性的マイノリティ、子ども、障害者の権利などに関して、人権の促進や保護を行う独立した国内人権機関を設置するよう国連は求めている(パラグラフ6,7)。
2002年3月の国会では人権委員会の設置を含めた人権擁護法案が提出され、また民主党政権下の2012年には人権委員会設置法案が閣議決定されたが、現在に至るまで法律の成立、人権機関の設置には至っていない。
日本政府は今回の審査における国連からの事前質問に対しては、「これまでなされてきた議論の状況も踏まえ、検討しているところ」としか答えていない。
国連勧告を受けてどのような動きが起こっているか?
ここまで、総括所見で行われた入管に対する勧告の内容を見てきたが、これを受けて国内ではどのような動きが起こっているのだろうか?
市民社会の反応
非正規滞在の外国人を支援してきた市民社会組織は、今回の勧告の内容を歓迎しつつ、政府に勧告を真摯に受け止め、具体的な改善を行うよう求めている。
今回の国連による審査にあたってNGO共同レポートを提出した人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)の移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)は、国連の委員は入管や難民・庇護希望者に関わる多くの情報を事前に把握しており、勧告は適切なものだったとして評価している。
一方で、前回(第6回)の総括所見から8年以上経ったにも関わらず、進捗が無いまま繰り返されている勧告が多いことに、懸念の声も聞かれる。
11月8日には国連勧告を受けてウィシュマさんの遺族が参院議員会館で支援者とともに会見を行った。ウィシュマの妹たちからは、「姉のような事態は何年も前から繰り返されているのに『国連の勧告を受け止める』という法務大臣のコメントは信じがたい。言葉だけでなく行動に移してほしい」、「政府は勧告を受け止めて制度を変えてほしい」といった訴えがあった。
政府の反応
一方で、政府からは、勧告を受けた具体的な改善に向けた動きは乏しい。
勧告で指摘された、独立した国内人権機関については、葉梨法相(当時)は11月4日の記者会見で、「不断の検討をしている段階」で「国連の勧告は指摘としてしっかり受け止め」るが、「現段階においては、個別法によるきめ細かな人権救済で対応していきたい」として、設置には否定的な考えを示した。
入管に対して勧告があった、難民保護制度の充実や、収容施設での処遇改善、仮放免中の支援、難民審査に関わる司法判断へのアクセス、収容の代替措置、また施設収容者の権利尊重のための入管を監視する第三者機関の設置などについては、今後入管法改正案の取り扱いがどうなるかが焦点だ。
今年秋の臨時国会では、通常国会に引き続き、入管法改正案の再提出は見送りとなった。一方で、齋藤新法務大臣は早期成立を目指す方向を示している。その際、外部の有識者の意見に耳を傾けるとはしながらも、国連や市民社会からの批判を踏まえて専門部会を改めて設けて、再度一から議論するといったことはないとしている。
自由と人権を柱に据える価値観外交との整合性
これまで見てきたように、日本の出入国在留管理や難民認定制度は今回の国連勧告に限らず国際社会や市民社会から多くの批判を受けてきた。日本は自身が進める「価値観外交」との整合性を問われている。
日本は第二次安倍政権以降、自由や民主主義、人権などの普遍的価値に基づく「自由で開かれたインド太平洋」といった価値観外交を進めてきた。岸田政権もこれを踏襲する方針を示し、人権外交の推進に向けて中国国内の人権状況に懸念を示すなど取り組みをアピールしている。
NHKはこれを踏まえて、「自由と人権を外交の柱に据える以上、外国人の人権にも十分配慮し、国内外の批判の声に真摯に耳を傾けてほしい」としている。また、読売新聞も社説で、「ロシアのウクライナ侵略など、世界では人権という普遍的な価値が脅かされている。そうした状況の改善に貢献すべき立場の日本が、人権侵害の批判を受けるような事態は好ましくない」としている。
今回の入管に対する勧告はフォローアップ対象となっているため、3年後の2025年11月4日までに勧告された内容の実施状況について国連に報告することとなっている。自身の外交姿勢とのダブルスタンダードにならないよう、国内の人権状況についても改善の取り組みを進める必要があるだろう。