⏩昨年12月採択の国際目標で「生物多様性への影響」に関する情報開示が各国に要請
⏩年内には国際タスクフォースから情報開示の基準も公表予定
⏩生物多様性に依存する産業の経済規模は、世界GDPの約半分
企業による生物多様性への配慮が、重要な課題となりつつある。近年、気候変動への影響に関する情報開示が企業の間で広がっているが、同様の取り組みが生物多様性の分野でも求められる可能性が高まっているのだ。
その契機となったのが、昨年12月にカナダ・モントリオールで開催された生物多様性条約の第15回締約国会議(COP15)だ。「COP」というと、気候変動枠組条約の締約国会議が一般的には知られ、昨年はエジプトのシャルムエルシェイクでCOP27が開催された。しかし、COPとは「ConferenceoftheParties」(締約国会議)の略称であり、気候変動枠組条約に固有のものではない。
「もうひとつのCOP」とも呼ばれ、日本での注目度はさほど高くなかったCOP15だが、実はビジネスにも大きく関係する事項が採択された。
では、今後どのようにして生物多様性への配慮が企業にとって重要な課題となるのか。そして、一体なぜ生物多様性がそれほど重要なのだろうか?
企業への情報開示求める国際目標
2022年12月19日に閉幕したCOP15では、生物多様性の保全に向けた2030年までの国際目標として「昆明・モントリオール生物多様性枠組」(以下、新枠組)が採択された(*1)。生物多様性保全の国際目標としては、2010年に愛知県で開催されたCOP10で、2020年までの達成を目指す「愛知目標」が採択された。しかし、愛知目標の内容はほぼ未達となっており、次なる国際目標の設定が急がれていた。
新枠組では、2030年までに地球上の陸と海のそれぞれ30%以上の面積で生物多様性の保全を目指す「30by30」をはじめ、23のターゲットが設定された。今後、各国はこの目標の達成に向けて行動する。そのため、今回の新枠組は「生物多様性におけるパリ協定」とも呼ばれている。
そして企業にとって重要となるのが、新枠組におけるターゲット15の内容だ。ターゲット15は、企業による生物多様性への負の影響を低減するために、各国に対して適切な措置の実施を求めている。
なかでも注目すべきは企業による情報開示制度の整備が求められていることだ。以下、枠組本文からその部分を引用しよう。
生物多様性に係るリスク、生物多様性への依存及び影響を定期的にモニタリングし、評価し、透明性をもって開示すること。すべての大企業並びに多国籍企業、金融機関については、業務、サプライチェーン、バリューチェーン、ポートフォリオにわたって実施することを要件とする
もっとも、こうした情報開示制度の整備は各国に対する「要請」に過ぎず、義務化されてはいない。しかし、交渉の過程でEUや英国は義務化を求めていたとも報じられており、欧州を中心に制度整備が進んでいくと見られている。
(*1)COP15は2020年に中国・昆明で開催される予定であったが、コロナ禍の影響で延期となり、開催地も条約事務局のあるモントリオールに移った。
カギを握るTNFDの動向
一方、すでに金融業界などでは、生物多様性に関する情報開示を企業に求める枠組の整備が進んでいる。
気候問題に関連する情報開示をめぐっては、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)によって設定された項目が世界的なスタンダードとなっている。
生物多様性についても、TCFDと同様の枠組設定を目指す「自然関連財務情報開示タスクフォース」(TNFD)が2021年9月に発足した。TNFDでは約40名の専門家を中心に生物多様性に関する情報開示の基準が議論されており、議論をサポートするフォーラムには日本から全国銀行協会も参加している。
TNFDは今年中に最終的な枠組を公表する予定で、2023年を1つの境として生物多様性に関する企業の情報開示が世界的に広がる可能性もある。
なぜ生物多様性が重要なのか?
では、なぜ生物多様性がそれほどまでに重要なのだろうか。