⏩成長が見込まれるものの、ブランドイメージに影響が出る可能性も
⏩競合増加で次の戦略に注目が集まる
イーロン・マスク氏率いるEV大手・Tesla(テスラ)は、前年に引き続き2022年も、EV世界販売台数トップを守った。同社にとって過去最高となる販売台数を記録したものの、EV市場の競争激化により、Tesla 一強状態は脅かされつつある。
そのような中で、同車の大幅な値下げが話題だ。高級EVメーカーとして成長を続けてきた Tesla は、なぜ値下げに踏み切ったのだろうか?
テスラの苦境
Tesla については、最近になって成長鈍化が懸念されている。具体的には、納車台数の増加率が落ちていることが挙げられる。
2022年第4四半期の報告によると、納車台数は前年比で40%増だった。2021年の増加率が87%、2020年が515%と驚異的な数字だったことを考えると、かなり緩やかになっている。
また、自動車部門の粗利率は25.9%に留まり、過去5四半期にわたって減少傾向にある。
業績に対する不安は株価にも反映され、かつて1年で8倍になるほどの勢いで高騰していた同社株は、昨年1年で70%も値を下げた。急成長にブレーキがかかった原因は、何だろうか?
原因1. イーロン・マスク氏に対する批判
1つ目の原因は、 Tesla のCEOを務めるイーロン・マスク氏への批判が強まったことだ。
マスク氏は、 Tesla 以外にも革新的な企業の立ち上げに関わってきた。たとえば2002年に設立した宇宙開発企業 SpaceX は、2020年、民間企業として初めて有人宇宙船の飛行に成功している。共同設立した人工知能研究所 Open AI が開発した ChatGPT も注目を集めている。
一方で、昨年のTwitter買収は今も波紋を呼んでいる。マスク氏は年内のCEO辞任を表明しているが、一連の騒動中は Twitter に掛かりきりになっていたため、 Tesla の投資家の中には不満を抱く声が増えていた。
Tesla 個人株主第3位のレオ・コグァン氏は、昨年12月、以下のツイートを投稿している。
イーロンは Tesla を見捨てた。 Tesla にはCEOがいない状態だ。
Tesla 株の急落は、Twitter買収の時期と重なっており、ウェッドブッシュ証券のアナリスト、ダン・アイブス氏は、Twitter買収劇が Tesla の株価を押し下げたと主張して、次のように述べている。
Tesla にはEVの根本的な変革をもたらすという物語があったのに、マスク氏によってTwitterのためのATMと化してしまった。
原因2. ギガファクトリーの停滞
マスク氏がTwitterに気を取られている間に、EVの要とも言えるリチウムバッテリーの生産工場「ギガファクトリー」の運営に綻びが出てきた。
米国内には、第1号となる「ギガファクトリー ネネバダ」のほか、ニューヨーク州とテキサス州にも工場がある。2019年には中国・上海、2022年にはドイツ・ベルリンのギガファクトリーが稼働を開始し、アジアと欧州にも生産拠点ができた。
しかし同社の生産増強は、思うように進んでいない。Wired誌によると、ベルリン工場では、低賃金やマネジメント不足が原因で、深刻な人員不足が発生している。1万2,000人の募集に対して採用人数は7,000人に留まり、「週5,000万台」という生産目標は達成できそうにない。
昨年の全生産台数の半数を担った上海工場も、昨年末に突然一時停止し、生産量削減が報じられている。
また予定されていた同工場の拡張は、延期となった。Bloombergの報道では、マスク氏が手掛ける衛星通信サービス Starlink(スターリンク)について、中国政府がセキュリティ上の懸念を示していることが遠因だという。
原因3. テスラ車の品質に対する不安
もう1つの原因は、 Tesla 車自体の品質に疑問の目が向けられていることだ。たとえば運転支援システムが、事故を引き起こす可能性も指摘されている。