⏩ 4年ぶりにエルニーニョ現象が発生
⏩ 太平洋赤道域の日付変更線から南米の沿岸にかけて、海面水温が平年より高くなる現象
⏩ 今年のエルニーニョ、特に規模の大きいスーパーエルニーニョの可能性も
6月9日、気象庁は「エルニーニョ現象が発生しているとみられる」と発表した。
エルニーニョ現象は、赤道に近い東太平洋の海面水温が平年よりも高くなる現象で、世界各地に異常気象をもたらす "元凶" として知られている。今回のエルニーニョ現象では、早くも異常事態が各地で報告されており、6月15日にはメキシコでは海沿いで野鳥の大量死が確認された。地元当局は、エルニーニョ現象による高い海水温が大量死の原因と指摘する。
世界各地で異常気象をもたらすエルニーニョ現象は、世界史にも深く関わってきた。後述のように、インカ帝国滅亡やフランス革命の背景にも、エルニーニョ現象が影響していた可能性が指摘されている。
経済損失の大きさも無視できない。1997年から1998年にかけて発生したエルニーニョ現象では、世界全体で累計5.7兆ドル(約741兆円)の経済損失が発生した。主な原因は、洪水や干ばつなどの異常気象による被害だ。
また今年のエルニーニョ現象は、従来よりも規模が大きい「スーパーエルニーニョ」となる可能性も指摘されている。現在の予想通り、スーパーエルニーニョが今年秋にかけて続けば、世界の気温は過去最高を更新するとの見方もある。
では、そもそもエルニーニョ現象とは一体何なのか。
エルニーニョ現象とは何か
エルニーニョ現象(以下、エルニーニョ)とは、太平洋赤道域の日付変更線から南米の沿岸にかけて、海面水温が平年より高くなる現象だ(*1)。気象庁の場合、赤道沿いの東太平洋の海面水温が基準値よりも0.5℃高い状態が6ヶ月間続くと、エルニーニョが発生したとみなす(*2)。
海面水温の上昇を引き起こすエルニーニョを最初に発見したのは、1600年代の南米の漁師たちとされる。当時はエルニーニョが12月に発生することが多く、漁師たちはこの現象をスペイン語で「キリスト・男の子」を意味するエルニーニョと名付けた。
通常、赤道付近では東から西に向かって貿易風と呼ばれる強い風が吹いている。そのため、海面近くの暖かい海水は風に流されて西のインドネシア方面に向かう。だが、何らかの理由で、この貿易風が弱まると、暖かい海水が東側で停滞してしまう。この状態がエルニーニョであり、貿易風が弱まる原因は現在も明らかになっていない。
平常時とエルニーニョ発生時での海洋の変動(気象庁HPより, CC BY 4.0)
(*1)エルニーニョが発生すると、大気でも熱帯太平洋の東部と西部で気圧が変動する「南方振動」と呼ばれる現象が発生する傾向にある。そのため、両者をまとまった現象としてみなし、エルニーニョ現象を「エルニーニョ・南方振動」(ENSO)と呼ぶ場合もあるが、この記事ではENSOを含めた概念としてエルニーニョに表記を統一する。
(*2)エルニーニョの発生時期の判断は各国当局などによって異なり、2023年の場合、世界気象機関は7月4日にエルニーニョ発生を宣言した。