⏩ 上場企業の7割が「気候変動についてアピールを控えている」とも
⏩ グリーンウォッシュ規制の強化やESG批判などが背景
⏩ 一方、EUでは日本企業800社も対象となる情報公開規則が施行
企業の間で、グリーンハッシング(green hushing)と呼ばれる現象が広がっている。グリーンは「環境」、ハッシングは「黙らせる」をそれぞれ意味する言葉だ。
企業が実態に見合わない環境への配慮をアピールすることを指す、グリーンウォッシュという言葉は広く知られるようになっているが、グリーンハッシングは、これとは逆の行為を意味する。
つまり「顧客やステークホルダーに対して、自社の環境配慮に関する情報をあえて公開しないこと」が、グリーンハッシングの定義となる。なお後述のように、ここでの「情報を公開しない」という決断には、「本当は公開したいところだが、あえて公開しない」という消極的な態度も含まれている。
企業による環境配慮が広く求められるようになるなか、一見すると企業がグリーンハッシングをすることに合理性はないようにも思える。しかし、スイスのコンサルティング企業・South Pole が2022年に世界の1,200の企業を対象に実施した調査では、およそ1/4の企業が「自社の環境配慮に関する目標について、社外への発信を最低限にとどめている」と回答し、この調査結果が公表されて以来、グリーンハッシングへの注目は高まっている。
グリーンハッシングは、環境配慮に関する取り組みを企業間で共有することの障壁となり、気候変動の抑制においてマイナスの効果を持つとも指摘されている。では、企業はなぜ、あえて環境配慮に関する情報を公開しないという選択肢をとるようになっているのか。
グリーンハッシングの広がり
2022年以降、企業によるグリーンハッシングは世界各地で確認されている。
2023年に Southe Pole が12ヶ国の計1,400社を対象に行った調査によると、「気候変動に関係する社外とのコミュニケーションを意識的に減らしている」と回答した企業の割合は58%に上った。また、上場企業に対象を限定すると、その割合は約70%に増えることも明らかになった。
上場の有無に加えて、業種の差もグリーンハッシングの割合を左右する重要な要素となる。South Pole の調査によると、グリーンハッシングが確認された割合が高い業種は順に、
- 再生可能エネルギーなどを扱う環境ビジネス業
- 消費財企業
- 石油ガス企業
で、環境ビジネス業では88%もの企業でグリーンハッシングが確認されている。
もっとも、ここで注意すべきは「グリーンハッシングをすること」と「環境配慮を怠ること」には相関関係がないことだ。前述の South Pole による調査でも、「科学的な環境配慮目標を設定している」もしくは「設定する予定がある」と回答した企業の割合は87%に上った。したがって、「社内で環境配慮への取り組みは進めるものの、そのことを外部に公表することは避ける」という態度がグリーンハッシングの実態と言える。
なぜグリーンハッシングをするのか?
2023年の South Pole による調査結果によると、企業の間でグリーンハッシングが広がる背景には(1)企業が情報公開を躊躇する要因、(2)企業が情報を隠す要因の大きく2つがある。