⏩ タクシー車両はあるものの、実働率が低下
⏩ ライドシェア導入の声が上がるも、「タクシー王子」川鍋一朗が率いる業界は反発
⏩ 業界・政界・省庁の密な連携、Uber 内部の対立などがライドシェア阻む
コロナ禍による制限が落ち着き、人々の出足が戻る中で、タクシーが捕まらないという声が頻繁に聞かれるようになった。8月10日には、中国政府が中国人の日本への団体旅行を解禁すると発表し、さらなる訪日外国人数の増加が見込まれることからも、タクシーの供給不足が懸念されている。
運転手の減少や高齢化が原因とも言われているが、タクシー業界は2010年頃から、タクシーの過剰供給を抑制するために、政界と連携して新規参入を規制してきた背景もある。
人々の移動手段が不足している事態に対処するため、規制を緩和し、Uber をはじめとするライドシェア(一般ドライバーによる有償の乗客運送サービス)の導入を急ぐよう求める声もあがった。
日本でライドシェアの参入が遅れている背景には、タクシー業界からの圧力や規制の壁があるとも言われる。2015年頃からライドシェアの波が日本に押し寄せようとする中、タクシーアプリ GO を手がけ「タクシー王子」の異名を持つ川鍋一朗氏が率いる業界団体は、政界と手を結んで「断固阻止」する構えを見せ続けてきた。
川鍋氏を筆頭にした業界からの圧力および政界の働きかけによって、ライドシェアの導入が進んでいない側面はたしかにある。しかしながら、過去に Uber が業界との調整をおろそかにしたままライドシェアを強行したことや、同社の内紛によって業界の反発がより強固になった点も、見逃すことはできない。
なぜ現在、タクシーが捕まらない事態が発生しているのだろうか。そして、ライドシェア導入が進まない背景にあるタクシー業界と政界の連携、そして過去に Uber が犯したミスとはどのようなものなのだろうか。
何が起きているのか
現在のタクシー不足とは、端的に言えば、車両自体が不足しているわけではなく、それが稼働していない状態になっていることだ。
東京都特別区・武三交通圏(東京都23区・武蔵野市・三鷹市)における年度別の事業用車両数と実働率の推移(東京ハイヤー・タクシー連合会の2022年度事業報告より筆者作成)。
東京都特別区・武三交通圏(東京都23区・武蔵野市・三鷹市を指す)における事業用自動車の延実在車両数(*1)は、特段減少していない(*2)。その数は2012年度(平成24年度)に約930万日車、2017年度(平成29年度)に956万日車、2022年度(令和4年度)に900万日車となっている(上図)。
一方で実働率(*3)は、約83%(2012年度)、77%(2017年度)、65%(2022年度)と減少傾向にある。
したがって、車両数が減っているというよりも、その実働率が落ちていることが分かる。タクシー自体はあるものの、それが街中を走っていないために、人々がタクシーを捕まえられていないのだ。
では、タクシーが足りていないわけではないにもかかわらず、それが街中を走らずに駐車場に留まっている理由は何なのだろうか。
(*1)延実在車両数は、事業用自動車数が前年4月1日から当年の3月31日までの1年間において在籍した日数の年間累計車両数を指す(単位は日車)。たとえば事業用車両数が10台の場合、延実在車両数は10 × 365 = 3,650日車となる。
(*2)ただし、全国へと範囲を広げると、タクシーの車両数は法人も個人も減少傾向にある。
(*3)実働率は、延実働車両数を延実在車両数で割ることで求められる。延実働車両数は、事業用自動車が稼動した日数の年間累計車両数を指す(単位は日車)。たとえば事業用車両数が10台で実働が毎月20日の場合、延実働車両数は10 × 20 × 12 = 2,400日車となる。このとき、実働率は 2,400 / 3,650 × 100 = 65% となる。
なぜタクシーが捕まらないのか
タクシーが捕まらない原因は、その需給バランスが乱れていることにある。端的に言えば、増大する需要に対して、十分な量のタクシーが供給されていないのだ。
1. 需要
需要の側面で言えば、顕著なのは訪日外国人旅行者数の増加だろう。その数は、2013年に1,000万人、2018年には3,000万人を突破した(下図)。2020年以降はコロナ禍の影響で大幅に減少したが、2023年は上半期で1,000万人を突破し、年間では2,000万人を超えると予測されている。
訪日外国人旅行者数・出国日本人数の推移(日本政府観光局(JNTO)をもとに観光庁作成, CC BY 4.0)
くわえて、2023年8月10日には、中国政府が中国人の日本への団体旅行を解禁すると発表し、さらなる訪日外国人数の増加が見込まれる。
こうした増大する需要に対応するだけの供給がなされていないため、タクシーが上手く捕まらない事態が発生していると思われる。
2. 供給
供給という側面はさらに2つの視点から整理することができ、具体的には(1)事業者・運転者数の減少と(2)ライドシェアが浸透していないことだ。
2-1. 事業者・運転者の減少
1つ目の視点として、事業者・運転者の数が減少している点をあげることができる。