⏩ 日本の少子化は1970年代半ば頃から開始
⏩ 主な要因は晩婚化・非婚化といった結婚行動の変化
⏩ その背景には、交際相手がいないことや、経済格差、育児負担の男女差などが指摘される
少子化対策に関する議論が、熱を帯びている。
岸田文雄首相が掲げる「次元の異なる少子化対策」の実現に向けて、政府は6月13日、児童手当や育児休業給付の拡充などの具体策を盛り込んだ「こども未来戦略方針」を閣議決定した。7月22日には、少子化対策や子育て支援への理解を広げる目的で、こども家庭庁が「こどもまんなかアクション」のキックオフイベントを都内で開催し、岸田首相も参加した。同首相は「強い気持ちを持って、そして是非スピード感を持って、こうした取組を進めていきたい」と述べ、少子化対策への意欲を示した。
日本の少子化対策は、1989年の合計特殊出生率(*1)がそれまで過去最低であった1966年の1.58を下回った「1.57ショック」を契機に、1990年代から開始された。子育て支援や家庭と仕事の両立など、様々な政策分野を巻き込みながら拡大を続け、2022年度の少子化対策関係予算にはおよそ6.1兆円が投じられている。
しかし、少子化対策が30年にわたって行われてきたにもかかわらず、出生数の低下には歯止めがかからず、2022年の出生数は初めて80万人を下回った。最新の将来人口推計では、今後も少子化が進行し、2070年の出生数は50万人、総人口は8,700万人弱まで減少すると予測されている。
新たな少子化対策を巡っては、その内容をどうするかだけでなく、例えば児童手当の所得制限撤廃など一部の施策の効果を疑問視する声も聞かれる。総額8兆円に上ると言われる予算の財源をどう捻出するのかも議論の的だ。社会保険料の引き上げや増税、歳出改革など、様々な財源が検討されているが、世代間の負担の偏りをどう是正するかなど、議論の道筋は立っていない。
少子化対策を効果的に行うためには、日本の少子化の現状を理解することがまず必要だ。では、少子化とはそもそも何を意味し、なぜ引き起こされるのだろうか。
(*1)以下では、特に断りがない限り、単に出生率と言うときにはこれを指すものとする。
少子化とは?
少子化とは、期間合計特殊出生率が人口置換水準の2.07を長期間下回ることを指す。
期間合計特殊出生率は、ある年次の15歳から49歳の女性のそれぞれの年齢別出生率を足し合わせたものだ。年齢別出生率は、分母に各年齢の女性数、分子に各年齢の女性から生まれた出生数で計算される。女性が仮にその年次に観察されたパターンでその後出産した場合、一生で平均して何人の子どもを生むかという指標になる。仮に出生率が2.0なら、その仮想的な女性が一生のうちに平均して2人子どもを生むことを意味する。
人口置換水準とは、生まれる子世代の人口が出産する親世代と同数以上になることで、人口の置換がなされるために必要な出生率の水準を示す。一般的に、現代の先進国における人口置換水準は約2.1とされる。出生率が人口置換水準を長期間下回ると、女性が1人あたり子どもを2人産まない状態になり、子世代の人口が親世代の人口よりも減り、さらにその子どもも減っていくため、人口数が長期的に減少していく。
では、そもそも日本の出生数と出生率はどのような推移を辿り、少子化はいつ頃から始まったのだろうか。
これまでの出生数と出生率の推移は?
日本の出生数と出生率(*2)の戦後から現在までの推移をみると、途中出生率が安定して出生数が上向いた時期があるものの、全体としてはいずれも大きく低下したことが分かる。
日本の出生数と合計特殊出生率(1947年~2020年)。(国立社会保障人口問題研究所『人口統計資料集2023年度版』をもとに筆者作成)