Saint Sophia Cathedral, Kyiv(Rbrechko, CC BY-SA 4.0) , Illustration by The HEADLINE

ユネスコ、新たな世界遺産を決定 = 危機遺産にウクライナ、ヴェネツィアは回避

公開日 2023年10月12日 11:26,

更新日 2023年10月12日 11:31,

有料記事 / 文化

この記事のまとめ
💡 ユネスコ世界遺産会議、注目ポイントと課題

⏩ 世界遺産が42件追加、合計1,199件で過去最多に
⏩ 危機遺産、ウクライナから2件が追加、ヴェネツィアは回避
⏩ 多様性を目指すも、まだ地域の偏りがある状態

2023年9月10日から25日にかけて、サウジアラビアの首都リヤドで国連教育科学文化機関(ユネスコ)の第45回世界遺産委員会が開催され、世界遺産の見直しが行われた。

正式な世界遺産委員会の開催は、4年ぶりとなる(*1)。同委員会は世界遺産のある都市で年に1度開催されることになっているが、コロナ禍やウクライナ戦争の影響で延期が続いていた。

紛争が続くウクライナの文化遺産が危機遺産に指定されたことや、パレスチナの世界遺産登録にイスラエルが反発していることなどが話題になっているが、何が問題視されているのだろうか。また、ユネスコ世界遺産はどのような課題を抱えているのだろうか? 

(*1)2020年に中国・福建省で開催を予定していた第44回は、コロナの感染拡大により延期され、翌年オンラインで実施された。第45回は2022年にロシア中部のカザンで開催予定だったが、ウクライナへの軍事侵攻を受けて反対の声が上がり、無期限延期となった。2023年1月にはパリで臨時の特別会合が開かれている。

何が決まったのか

今回の世界遺産委員会では、新たに42件(文化遺産33件、自然遺産9件)が登録され、世界遺産は合計で1,199件(文化遺産933件、自然遺産227件、複合遺産39件)となった。なお、日本からの新規登録は無い。文化遺産への登録を目指す「佐渡島の金山(新潟県・佐渡市)」は、推薦書の不備により調査が来年に持ち越された。

紛争や災害などの危機にさらされている危機遺産」は、合計56件になる。詳細は後述するが、ウクライナの文化遺産2件が追加され、7月に勧告を受けたヴェネツィアは指定を免れた。

どう決めるのか

世界遺産は、世界遺産条約締結国からの推薦に基づいて審査される。推薦できる遺産の条件は、10ある登録基準を1つ以上満たすことだ。推薦書に基づき現地調査などが行われ、年1回の世界遺産委員会または不定期の特別会合で審議にかけられる。

審議を行うのは条約締結国のうち21の委員国で、現在は日本も含まれているが、2025年に任期が終了する。委員に選ばれた国は、4年の任期が終了すると、次の立候補までは6年空けなければならない。

推薦された世界遺産の大半が承認されてきたが、落選するケースもある。今回は候補に挙がった45件中3件が認められなかった(*2)

過去に日本が推薦した文化財の中では、2008年の「平泉ー浄土思想を基調とする文化的景観」や2013年の「武家の古都・鎌倉」などが落選した(*3)。富士山のように、自然遺産としては認められなかったものの、後に文化遺産として登録されたものもある。

日本の象徴的な存在である富士山については、日本が世界遺産条約に批准した1992年から世界遺産登録を目指す動きがあったが、実際に登録が決定したのは21年後の2013年だ。労力と時間をかけて「世界遺産」として認められることに、どのような意義があるのだろうか?

(*2)登録が見送られたのは、「ゴロホヴェツ歴史地区」(ロシア)、「マスレの文化的景観」(イラン)、「アルタイ高原郡」(モンゴル)の3件。
(*3)平泉は正確には「記載延期」の勧告を受けている。

世界遺産の意義

世界遺産は未来へと引き継いでいくべき「人類共通の遺産とされているため、登録されることで保護・保全のための国際的な協力体制が築かれる。

すると、国際的な監視下でより適切な保護が促されるだけでなく、災害時に世界遺産基金の援助を受けられるといったメリットがある。また、認知度が向上して観光客が増えることで、地域の経済活性化が期待できる。

しかし、観光客の急増によってトラブルが引き起こされるオーバーツーリズムなどの問題も浮上している。

オーバーツーリズムとは何か?観光客増加に伴う問題
有料記事 / 社会

島根県・石見銀山のふもとにある大森地区は、鉱山が1923年に閉山してから空き家が増え、1970年代にはゴーストタウン化していた。しかし「石見銀山遺跡とその文化的景観」が2007年に文化遺産として登録されたことで、観光客が急増した。新しい事業が興る一方で、地元の高齢者の生活に支障が生じるなどしており、「嬉しいとは言えない」という声もある。 

危機遺産指定のゆくえに関心が集まっていたヴェネツィアも、オーバーツーリズムに悩まされてきた世界遺産のひとつだ。

注目のポイント

今委員会で特に注目された決定事項は、(1) ウクライナの文化遺産の危機遺産指定(2)ヴェネツィアの危機遺産指定見送り(3)パレスチナのエリコ遺跡登録に対するイスラエルの反発だ。

1. ウクライナの危機遺産指定

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✍🏻 著者
リサーチャー
東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)にて修士号取得。専門はイタリア近代絵画。アートの領域を中心にライターとして活動中。
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