⏩ その先見性から「彼には未来が見える」と言われる
⏩ 大きなイノベーションに取り組むスタートアップに次々と投資
⏩ AI を中心にアルトマンが構築する未来像とは
3月上旬に発表されたブルームバーグ・ビリオネア指数によれば、OpenAI のサム・アルトマンCEO の資産は少なくとも20億ドル(約3,000億円)にのぼる。
アルトマンは、同社の営利部門の株式を保有していないとされているため、今回の数字にはその分が含まれていないという。
今でこそ AI 業界の顔となっているアルトマンだが、これまで100を超えるスタートアップを後押ししてきた投資家としての顔も持っている。ただし投資先の大部分は非公開企業であるため、彼の資産状況を正確に知ることは難しい。
足元では、アルトマンが大株主の1人であるソーシャルメディア・Reddit が、新規株式公開(IPO)を目指している。同社は最大64億ドル(約9,600億円)の評価額で7億4,800万ドル(約1,180億円)を調達する計画であり、IPO が実施されれば、アルトマンの資産はさらに膨らむと見られる。
アルトマンは、その先見性から「未来が見える」と言われ、「彼の仕事は未来を作ることだ」とも評される(太字は引用者による、以下同様)。かつて、パーソナルコンピュータの父である計算機科学者アラン・ケイは、「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」という言葉を残した(*1)。アルトマンはまさしく、この言葉の体現者だ。
アルトマンは、投資家としてどのような思想に基づき、どのような投資先を構築して未来を作ろうとしているのだろうか。
(*1)これは、ピーター・ドラッカーの「未来を予測することはできないが、それを発明することはできる」という言葉を改変したものだ。
経済成長への問題意識
前提として、アルトマンの問題意識は、経済成長にある。彼はアメリカの経済が停滞していると考え、その処方箋としてイノベーションとテクノロジーを掲げている。
アルトマンは2013年、自身のブログで「経済成長がなければ民主主義は機能しない」と述べている。このとき、アメリカの GDP(国内総生産)成長率は伸び悩んでいた(下図)。彼は、経済は成長しているものの、かつてほど大きなジャンプを見せていないと分析する。
アメリカの GDP 成長率(1961-2013)(World Bank via Our World in Data, CC BY 4.0)
アルトマンは、こうした成長のない世界では、人々が限られたパイを奪い合うために、社会は敵対的になると指摘する。バラク・オバマ政権下にあったアメリカはこの頃、議会が紛糾して連邦予算を可決できない状態に陥っていた。2013年10月、ついに、政府がおよそ半月にわたって閉鎖する事態が生じた。
封鎖されたナショナル・モール(Emw, CC BY-SA 3.0 DEED)
このように、アルトマンは、アメリカの民主主義の停滞原因に、成長の鈍化した経済状況を読み取り、これを「非常に悪い組み合わせ」と評している。
さらに、こうした文脈においてアルトマンが問題視していたのが、画期的な技術開発に対する政府からの資金がほとんどないことだ。
この傾向は今でも変わっていない。2022年時点で米国の国家安全保障予算のうち、イノベーションに充てられる割合はわずか 4% だ。一方で大手テクノロジー企業は、国防総省の3~5倍を研究開発に費やしている。
以上のような問題意識を抱えたアルトマンは、イノベーションへの予算を「支出」と見なす政府にかわり、VC や個人で「投資」をおこない、アメリカの経済に成長をもたらそうとしている。究極的には、アメリカだけでなく全世界の人々の生活向上を視野に捉える、壮大なビジョンだ。
アルトマンの投資の方向性
サム・アルトマンの投資の方向性は大きく2つあると考えられる。具体的には、楽観主義の源としてのインターネットと、ハードテックへの投資だ。
1. 「インターネットは楽観主義の源」
まず、アルトマンは「最も重要なことは、コンピュータが素晴らしいということです」と指摘している。彼は、8歳のときに初めてコンピュータ(Macintosh LC II)に触れたことが「人生の分かれ目だった」と話す(*2)。
中西部・セントルイス郊外で育ち、「同性愛者であることに悩んでいたが、そのことについて話せる人がいなかった」と語るアルトマンにとって、「インターネットは楽観主義の源」だという。彼が2014年頃から Reddit に投資してきた背景は、そのサービスによって「現実の世界では見つけることができない、同じ考えを持つ人々を見つけられる」ことを評価しているからだろう。
Reddit(同社サイトより)
アルトマンは、2011年から大手スタートアップアクセラレータ・Y Combinator(YC)の非常勤パートナーとなり、2014年2月には、28歳で社長に就任する。
彼は2019年に社長を退くまで、YC を通じて多くのソフトウェア・スタートアップを支援してきた。たとえば、民泊サービスの Airbnb(2008年設立)、オンライン決済サービスの Stripe(2009年設立)、クラウドストレージサービスの Dropbox(2007年設立、当時の社名は Evenflow)などだ。中でも Stripe は、最も成功した投資先だったと語っている。
ただアルトマンは同時に、こうしたソフトウェア・スタートアップへの投資だけでは不十分だと考えていた。2013年、自身のブログで、ソフトウェアが世界を飲み込みつつあるにもかかわらず、画期的な進歩が見られていない領域もあると指摘している。
(*2)アルトマンは、1985年生まれ。不動産ブローカーと皮膚科医の両親を持つ家庭で、4人兄弟の長男として育った。
2. ハードテックへの投資
アルトマンがソフトウェアと並んで追求するのが、すぐには実現しないが、上手くいけば莫大な価値をもたらす、ハードテック・スタートアップへの投資だ。
具体的な投資先
アルトマンのハードテックにおける投資先としては、具体的にエネルギー、バイオテクノロジー、食品関連の企業などがある。