Mark Zuckerberg (Anthony Quintano, CC BY 2.0) , Illustration by The HEADLINE

Meta の詐欺広告問題、日本は「なめられている」のか?前澤氏・堀江氏ら批判

公開日 2024年04月24日 20:35,

更新日 2024年04月24日 20:35,

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この記事のまとめ
💡 Meta詐欺広告をめぐり「日本がなめられている」との批判続出

⏩ Meta、なりすまし広告問題で英・豪でも裁判を抱える
⏩ 一方、非英語圏では違反コンテンツの監視が甘いというデータも
⏩ Metaを規制する法律が存在しないことも、問題の背景か

Facebook や Instragram における詐欺広告をめぐり、運営元である Meta への批判が高まっている。特に問題となっているのは、著名人の顔写真などを利用した、なりすまし広告への対応だ。

警視庁のまとめによると、2023年の1年間でなりすまし広告による詐欺被害は都内だけで合計210件、被害金額は38億円に上った。また、なりすまし広告以外の手口も含めた、SNSを利用した投資詐欺の年間被害額は、少なくとも全国で278億円にも上るとされる

こうした SNS を利用した投資詐欺で最初の接触手段として最も多く利用されているのが、Meta の運営する Facebook と Instagram だ。詐欺被害者への調査によると、最初の接触手段において Meta による SNS が占める割合は、4割を超えるとされる。

こうした事態を受けて、4月19日には自民党のプロジェクトチームが Meta 幹部を呼び出し、当面の間の全面的な広告停止を含めた抜本的な対応を要請。さらに、なりすまし広告の被害者であり、自民党のヒアリング調査にも協力した前澤友作氏や堀江貴文氏らは、「Metaが日本をなめていること」が根本的な問題だと指摘した

前澤氏や堀江氏は、自身の顔写真などを利用した詐欺広告について、繰り返し Meta への対処を要請したが同社は十分な対応をとっていないと厳しく批判している。

一連の詐欺広告問題をめぐって、なぜ Meta の対応はこれほど遅れているのだろうか?

なりすまし広告問題、日本だけか?

まず確認すべきは、Metaが運営するSNSでのなりすまし広告による詐欺被害が起きているのは、日本だけではないという事実だ。

2018年には、英国の金融ジャーナリストであるマーティン・ルイス氏が、自身の顔写真などを使用した偽の投資広告を放置したとして、Meta(当時:Facebook)を名誉毀損で提訴した。提訴にあたりルイス氏は、1年以上にわたり同社へ対処を求めていたが、一向に改善の兆しが見えなかったと主張しており、同社の日本における対応とも類似点がある(*1)

さらに Meta は、オーストラリアでも同様の訴訟を抱えている。同国の消費者保護当局である ACCC は2022年3月、同社がテレビタレントの写真などを利用した詐欺広告を SNS 上に公開したとして、消費者法違反などの疑いで連邦裁判所へ提訴した

(*1)Facebook側が詐欺広告への対応方針を示したため、2019年1月にルイス氏は提訴を取り下げた

日本は「なめられている」のか?

一方、前澤氏や堀江氏が主張するように、とりわけ日本では Meta による対応が後手に回っている可能性もある。一般的に、オンラインプラットフォーマーによるコンテンツ監視の度合いは、国によって異なることが指摘されているためだ。

米・調査報道機関の Propublica が、Google の元担当者へのインタビューにもとづき報じた内容によると、サイトポリシーに違反するコンテンツに対する同社の監視は、英語圏の国で相対的に厳しくなっているとされる。同時に、この元担当者は一部の国や非英語コンテンツでは監視体制が甘くなっていることも認めており、これを裏付ける調査結果もある。

Propublica は、Google のサイトポリシーに違反している偽情報の発信サイトにおいて、どの程度 Google によって配信される広告が掲載されたままかを分析した。その結果、英語サイトでは13%に留まっていた広告の掲載割合が、非英語サイトでは30%〜90%という高い数値を示したことが分かった。したがって、Meta の広告運用においても、英語圏と非英語圏でこうした対応の差が生じている可能性は否定できない。

なぜ日本は「なめられている」のか?

国や地域によって監視体制が異なる背景には、非英語の広告審査にかかるコストが相対的に高いことに加え、各国の法規制の状況も影響しているとされる。前出の Google の元担当者は、英語圏での監視を厳しく行う要因の1つとして、英語圏の各国における規制措置を挙げている

この元担当者が指摘するように、欧米各国はオンラインプラットフォーマーに対して、詐欺広告への対応を義務付ける法規制を整備している。EU では2022年、デジタルサービス法(DSA、Digital Services Act)が施行され、違法なコンテンツを繰り返し投稿する利用者について、プラットフォーマーがサービスの提供を停止することなどが義務化された。2023年には英国でもオンライン安全法が制定され、プラットフォーマーに詐欺広告の防止義務などが課された。

一方の日本では、詐欺広告などを放置しているプラットフォーマーに明確な責任を負わせる法規制は、存在していない。

もっとも、オンラインプラットフォーム上で権利侵害が起きていることを知っている(知ることができた)にもかかわらず、必要な対応をとらなかった場合に、民事責任を追及される可能性はある。詐欺広告の場合、金銭の詐取に加えて、著名人が有している肖像権の侵害が問われるおそれもあり、これを認知しつつ相応の対策をとらない場合には、プラットフォーマーも民事責任を問われかねない。

しかし、インターネット分野に詳しい影島広泰弁護士は「現在の法制度の下では、SNSでの詐欺広告に関してSNS事業者の民事・刑事の責任を追及することは難しい」とも指摘しているMeta の場合、対応が遅れているとはいえ、広告を審査したり違反広告の通報を促したりするなど、詐欺広告への対処を完全に放棄している訳ではない。したがって現行法上は、明らかに Meta への民事責任を追及できる状況にはないとも言える。

今後の展開

詐欺広告をめぐり Meta への批判が高まるなか、日本でも Meta に対する訴訟が広がる見通しは高い。4月18日には、Facebook 上のなりすまし広告で詐欺に遭った被害者グループが、同社日本法人に損害賠償を求める提訴を計画していることが分かった

だが、既存の法規制では Meta に対する法的責任の追及は、難しい可能性も高い。そこで注目されるのが、日本版 DSA とも呼ばれる新法の行方だ。

政府、情プラ法での対応を模索

政府は、Meta などのプラットフォーマーへの規制を盛り込んだ情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)を国会に提出(*2)。早ければ、今国会中での成立を目指している

情プラ法では、有害情報の削除申し出を受けたプラットフォーマーは一定期間内(*3)に対応を決定し、その結果を通知する義務を負う。この通知義務を無視した法人には、最大で1億円の罰金が課されることもある。Facebook 上などでの詐欺広告をめぐっては、Meta が広告の削除を進めないことが批判の焦点となっており、情プラ法の施行は、こうした事態打開の糸口になるとも期待されている

また一部専門家からは、プラットフォーマーに詐欺広告の流通防止義務を負わせる、英国のオンライン安全法を参考にした規制検討を提案するもある。だが前出の影島広泰弁護士は、プラットフォーマーが事前に広告や投稿の内容を「検閲」することには慎重になるべきとも指摘している

Meta をめぐる詐欺広告問題は、日本におけるオンラインプラットフォーム規制の大きな節目となるかもしれない。

(*2)情プラ法は、インターネット上での誹謗中傷などに対処する「プロバイダ責任制限法」の改正法である。
(*3)通知期間は法施行後に総務省令で定められる予定だが、1週間が目安とされる可能性が高い

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✍🏻 著者
シニアリサーチャー
北海道大学大学院農学院博士後期課程。専門は農業政策の決定過程。一橋大学法学部卒。
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