⏩ これまで民主党支持だった Washington Post や LA Times がハリス支持控える
⏩ 背景にオーナーのベゾスやスン・シオンら億万長者の圧力との報道
⏩ 現場から「民主主義が白昼堂々と死滅」と厳しい非難も
2024年10月25日(現地時間)、アメリカ大手メディア・The Washington Post 紙(WP)は、大統領選挙で特定の候補者を支持しないと表明した。同紙のウィリアム・ルイスCEO は、次のように述べている(太字は筆者による、以下同様)。
The Washington Post は、今回の選挙で大統領候補を支持するつもりはありません。また、将来のいかなる大統領選挙でも支持するつもりはありません。私たちは大統領候補を支持しないという原点に立ち返ります。
ルイスCEO が25日に発表した声明(The Washington Post より)
アメリカのメディアでは、大統領選で支持する候補を表明することは珍しくない(*1)。WP は1976年以降、ほとんどの大統領選挙(*2)で支持者を表明してきた(すべて民主党の候補者だった)。前回の2020年にはジョー・バイデンを支持し、前々回の2016年にはヒラリー・クリントンを支持している。
支持表明を控える動きは、他の有力紙・USA Today や Los Angeles Times(LA Times)でも見られた。LA Times は、2008年にバラク・オバマを支持して以来、WP と同様に民主党候補を支持してきた(*3)が、今回は支持の表明を取りやめている。
こうした発表は、内外から強い反発を引き起こした。WP の21名のコラムニストは連名で抗議し、今回の決定は「ひどい間違い」だと非難している。WP のコラムニストで、オピニオン部門の編集長も務めたロバート・ケーガンは、抗議の意思を示すために辞職した(*4)。LA Times の論説主幹であるマリエル・ガーザも辞職を表明し、次のように語った。
私が辞任するのは、私たちが沈黙し続けることは納得できない、ということを明確にしたいからです。危険な時代には、正直な人々が立ち上がる必要があります。これが私が立ち上がるやり方なのです。
ソーシャルメディア上では、#BoycottWaPo(WaPo をボイコットせよ)と掲げた解約運動が相次ぎ、10月29日までに25万人以上が WP の有料購読を解約したと見られる。これは、約250万人いる WP 購読者の 10% に相当する人数だ。
民主党のカマラ・ハリスから一定の距離を置いた両紙の選択に対し、「民主主義は白昼堂々と死ぬ」とする痛烈な批判も飛んでいる。後述するが、これは WP のスローガンを皮肉った物言いだ。
これまで、民主党支持を明確に表明し、共和党候補のドナルド・トランプを強く非難してきたはずの両紙は、なぜ今回、カマラ・ハリスへの支持を控えたのだろうか。
(*1)アメリカで最初に大統領選挙の支持を表明した新聞は、1860年にエイブラハム・リンカンを支持した Chicago Tribune 紙だった。
(*2)WP は1976年、後に大統領となるジミー・カーター(任期:1977-1981)を支持して以来、2020年まで基本的に大統領選で候補者を支持してきた。唯一支持を表明しなかったのは、ジョージ・H・W・ブッシュとマイケル・デュカキスが争った1988年の選挙戦の時だった。
(*3)とはいえ、LA Times は1881年の創刊以来、約100年にわたって共和党を支持してきたメディアだ。1970年代、ウォーターゲート事件を受けて、共和党のリチャード・ニクソン(任期:1969年-1974年)に対する支持を控えて以来、2008年までそのスタンスを取っていた。
(*4)ケーガンは、元々共和党支持者で、1980年代には、レーガン政権でジョージ・シュルツ国務長官(当時)のスピーチライター、2008年の大統領選挙では、バラク・オバマと対戦したジョン・マケインの顧問を務めた。その後、2016年に共和党がトランプを候補者として選出したことに反発して離党、2023年には WP に「トランプ独裁はますます不可避となっている。私たちは偽善をやめるべきだ」と題する長文のコラムを掲載した。