⏩ アルゼンチンでは「課税は盗み」と主張する大統領が数万人の公務員を解雇
⏩ 大幅な支出削減により財政黒字化、インフレ抑制の兆し
⏩ 補助金も削減し公共サービス停滞、低所得者層に打撃も
2025年1月6日、財務省は、省庁再編に伴い現在の体制に移行してから25年目を迎えた。
現在、財務省に対する風当たりは強い。いわゆる103万円の壁や、減税をめぐる議論の中で、SNS上では一時、同省について「国民の敵」や「#財務省解体」と非難する言葉がトレンド上位にランクインしたこともある。
年明けの1月4日にも、財務省正門前でデモがおこなわれ「財務省解体」と書かれたのぼりや、参加者によるチャントの様子が見られた。
財務省をはじめとした官僚に対する厳しい視線は、昨日今日向けられ始めたものではない。ただ、現在日本を含めた複数の国で官僚や公務員に対する非難の嵐が吹き荒れており、今月誕生する見込みの米・トランプ政権も同様に、公務員制度の弱体化を目論んでいる。
では、実際に官僚制を破壊すると政治や経済、人々の生活にどのような変化が起きるのだろうか。
チェーンソーを振り回すリーダー
近年、官僚制解体の動きを加速させている国としてアルゼンチンがあげられる。旗振り役となっているのは、2023年12月に大統領に就任したハビエル・ミレイだ。
ハビエル・ミレイ(Government of Argentina, CC BY 4.0)
アルゼンチンは、1980年代以降、3桁%を超えるインフレ、債務危機、銀行の取り付け騒ぎ、それに伴う不安定な政治状況など、機能不全に陥った経済に直面する国の典型例とされる。
制御できない物価上昇によって、賃金や貯蓄の価値が低下し、国民は自国通貨(アルゼンチン・ペソ)への信用を失っている。給料は受け取った瞬間に価値が下落してしまうため、人々は闇市場で米ドルを買い漁り、それを貯蓄する。一部の推計によれば、現在流通している米ドルの10%に相当する約2,000億ドル(約30兆円)がアルゼンチンに存在しているという。
そうした状況の中でミレイは、長年にわたる非効率な行政運営、多額の負債、それを補うための紙幣の印刷が国の危機を招いていると主張し、選挙に臨んだ。
彼は「衝撃的な」対策として、省庁および公務員の縮小による公共支出の削減、紙幣を印刷する中央銀行の廃止、信頼できない自国通貨にかわる米ドルの採用などを掲げた。ミレイは、そうした官僚制と硬直した政府構造を破壊する決意の象徴として、チェーンソーを持ち出してアピールした。
ショック療法
政治経験のないアウトサイダーとして選挙を戦ったミレイは、得票率 56% で左派の候補者に勝利し、2023年12月に大統領に就任した。就任後、ミレイは次のような “ショック療法” を発表した。
- 連邦政府にある18の省庁を9つに削減
- 新たなインフラ整備計画の中止
- 新規で雇用した公務員の解雇
- 市民へのエネルギーや交通補助金の削減
- アルゼンチン各州への交付金削減
選挙期間中、ミレイが省庁の名前を読み上げながら「除外!」(Afuera!)と言って投げ捨てる動画が話題となった
このように、ミレイの政策は、基本的に政府の支出を徹底的に削減することだ。彼は「課税は盗み」であり、それを司る国家を「大規模な犯罪組織」と呼ぶ。ミレイは、そうした信条を掲げるリバタリアン(自由至上主義者)であるため、政府の役割をできるだけ小さくすることを目指し、税収増ではなく支出減による財政の健全化を図った。
結果的に、ミレイは現在に至るまで、数万人に及ぶ公務員や公共事業労働者を解雇し、福祉制度、教育事業、医療事業などに対する政府の支援を削り始めている。
チェーンソーを振り回す人物が大統領になり、公務員が解雇され始めたアルゼンチンは、現在どのような変化を迎えているのだろうか。
何が起きたのか?
官僚制の弱体化によってアルゼンチンが経験した変化は、大きく3つの視点から理解できる。具体的には(1)インフレの抑制と財政黒字化(2)公共事業の停滞(3)貧困の悪化だ。