香港・国家安全法が成立した時、2つのシナリオが存在した。1つは法案が通った後、中国政府はしばらく様子を見て、大規模なデモ弾圧や逮捕には動かないという未来。もう1つは、すぐさま法律を積極的に適用していく未来。北京の中央政府が選んだのは、後者だった。
本誌でも伝えた通り、人気SNSサービス・TikTokが香港からの撤退を表明した他、FacebookやTwitterなどのテック企業は、同法を受けて当局へのユーザーデータ開示を一時的に停止している。
しかし、こうした企業が直面する問題は、わずか2週間のあいだに香港で起きた変化のごく一部だ。今月1日からスタートした国家安全法によって、いま何が起きているのだろうか?
デモ隊の逮捕
法律が施行された数時間後、香港のビクトリア湾には国家安全法を祝う赤い旗が掛けられた艀(はしけ、貨物などを運ぶ小舟)が登場した。デモ隊や民主派など同法を懸念する人々を嘲笑うかのように、プカプカと浮かぶ「賀國安立法」の文字は、世界中に報じられた。
この日、香港警察はすぐさま国家安全法を適用した。7月1日は、英国から香港が1997年に返還された歴史的な日であり、毎年デモや集会が開催されるが、今年は同法の影響により参加者は激減すると見られていた。香港当局も新型コロナウイルスを理由として集会の禁止を命じていたが、蓋を開けてみれば1000人近い市民がデモに参加した。
最初の逮捕者は、「香港独立」と書かれた旗を持っていたことで国家分裂罪に問われた男性であった。その他にも、旗を振った15歳の少女が逮捕され、合計10名が同法に違反した容疑で逮捕された。
警察はこの日、合計380名ほどの男女を器物損壊や違法集会に参加した容疑などで逮捕している。施行当日から多くの逮捕者を出したことで、中国政府による「国家安全法は一部の過激な少数者のための法案」という主張は、一気に疑わしいものへと変わった。
予備選挙への脅し
「香港の高度な自治が終焉」という懸念が現実的になったのは、予備選挙が国家安全法に違反すると警告された時だ。香港の議会にあたる立法会の議員選挙は今年9月に開催予定だが、民主派が自らの候補者を決める予備選挙は今月11-12日に実施された。
同法による萎縮効果もあり、投票に足を運ぶ人はそれほど多くないと思われていたが、目標をはるかに超える61万人が予備選挙で投票をおこなった。人々の民主主義への関心が高いことを伺わせるイベントとなったが、すぐさま13日に香港当局が牽制をおこなった。
キャリー・ラム行政長官は、予備選によって立法会の過半数議席を得た民主派が政策を妨害するならば、国家安全法の政権転覆罪に当たると指摘して、「当局は行動をおこなう」と述べて摘発や当選した議員の資格剥奪などを示唆した。
検閲のはじまり
言論の自由が脅かされる恐怖は、香港の図書館にも拡がった。